置き土産

 エミルがいなくなった後、俺はとても退屈な時間を過ごしていた。

 読もうと思えば本はいくらでもあるのだが、何億もありそうな本の山を目の前にして、読みたい本を探すという最初の難関を超えられずにいた。

 それでも何冊か手に取りページをめくってみたりはしたが、専門的な内容に辟易しそっと元の場所へ戻しておいた。普通の子供だった俺は他と同じように興味のないことを頑張れるタイプではないのだ。勤勉なタイプだったら違ったのであろうが、生憎とその真逆の人生を過ごしていたのだ。頑張って読めても小説がいいところだろう。それもあまり厚くなく軽めの方ヤツだ。

 結果としてすることがなくなってしまったので仕方なく眠ろうと思ったがそれも叶わなかった。今頃になって生き物を殺したことに興奮してきたようだ。ただ、興奮といってもいい意味のものではない。

 拭い去れない罪悪感や痛みのような感情が邪魔をして眠りにつくことが出来ないのだ。

 我ながら繊細に出来ているものだと呆れてしまう。漫画やゲームだとこんなことに悩んだりしていないのだが、どうやら自分の場合は違うらしい。

 やはりくる世界を間違えたのではないのだろうか。

 そんな今更な後悔をしながらも、ごろごろと何度も寝返りをうつ。何時間とその行為を繰り返しはしたものの眠りにつけることはない。

 精神世界というだけあって空腹や疲労を感じないのはいいのだが、景色が変わらず外の様子もわからないので体感時間が物凄く長い。エミルと変わってみたら二、三日経っていたとしても不思議には思わない。眠れないというのはそれほどに時間を長く感じさせるのだ。ある意味拷問といってもいいのではないだろうか。


「駄目だ……やっぱその辺の本を適当に読んでみるか……」


 十中八九興味のない内容だろうけど、それはそれで読んでいれば眠くなるかもしれない。

 俺は起き上がり本を取ろうと本棚へ向かった。その途中テーブルの上に置かれた物が目に入った。神様が知らない間に置いていったものなのだが、見た目が完全にスマホだ。これが本当にスマホならばいい暇つぶしになるのだが、使ってみてびっくり、完全に見掛け倒しなのだ。

 エミルと連絡を取ることは出来るのだが、それ以外はネットは繋がらないしゲームも入っていない。ならばいったいなんなのかというと……

 ご丁寧にも神様が置いていってくれた無駄に分厚い説明書によると『オラクルギア』という能力を管理するものらしい。

 基本的な操作方法はスマホと同じので、ホーム画面を開くと使える機能、アプリみたいなものがいくつか入っている。アイコンだけ見てもどんな機能なのかわからないため仕方なく説明書を開くと、アプリ一覧というページを見つけることが出来た。


『神託』・・・教会に集まる願いをクエストとして受諾出来ます。

『能力喰イ』・・・経験値を使用して能力を得ます。

『神様ノ設計図』・・・経験値を使用して対象物を改造します。

『等価交換』・・・金銭を使用して異界の商品を購入出来ます。

『ステータス』・・・ステータスを確認できます。

『スキル一覧』・・・使用可能なスキルを確認出来ます。

『交流』・・・同機と交信出来ます。

『賢者ノ遺産』・・・精神世界を出入り出来ます。


 色々と気になる記述はあるが、とりあえず能力喰イのアプリを使ってみよう。

 今日殺した化物(エミルがいうにはゴブリンという魔物らしい)からスキルを奪っているはずだ。

 アプリを起動するとまず『能力喰イを使用するには対象者が死亡または気絶してる状態で左手で触れる必要があります』という注意書きが五秒ほど表示された。

 どうやら思っていた以上に制約がある能力らしい。

 神様に聞いたときはもっとこう……チートっていうんだから見るだけとか、触れるだけでいいと思っていのだが……

 まぁ、能力喰イの名前通り食べる必要があると言われるよりはマシと考えるべきか。

 発動条件よりも問題なのが奪った能力をそのまま使えないということだ。

 ゴブリンからは『身体強化1.1倍』という能力を奪っているのだが、取得するのに経験値を二百消費する必要がある。対してゴブリン一体から得られた経験値はわずか十五。奪った能力がショボいのかゴブリンの経験値が低いのか。どちらにしても使いようがない。

 だいたい1.1倍ってなんだよ。誤差じゃん。

 一応他も確認しておこうかな。

 説明書と照らし合わせて色々と確認していると、エミルから「今日中には牢から出られそうにない」というメッセージが届いた。まだまだこの退屈は続くようだ。

 俺はため息をついてから、気にするなという猫の絵スタンプを送ってから、オラクルギアの機能確認へと戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る