第八章 ラミエルとサハロフとティアマット
第51話 ラミエルとサハロフとティアマット(一)
もう一つの双子鰐島への到着予定時刻十五分前にブリタニア号は停止した。
艦長と舞は、ブリタニア号の発令室にいた。
神流毘栖、ベッキーは神流毘栖とベッキーは艦長の命令でSDV(スイマー・デリバリー・ビークル)を出発させる準備をしていた。
スイマー・デリバリー・ビークルとは、潜水艦の魚雷発射菅から発進できる流線型の筒状の小型潜水艇である。
速度も遅く、機密性もない。搭乗には潜水装備着用が必須だが、小さく静かなため、敵には発見されにくく、上陸奇襲作戦に使われる。
SDV準備のため、神流毘栖やベッキーが発令室にいなかった。が、艦内無線を利用して、艦長と舞の声は聞こえているはずだった。
発令室の大型の立体ディスプレィに五㎞先に沈んだ施設が映し出されていた。おそらく、同じ映像がベッキーや神流毘栖も見ているのだろう。
目的の施設は水深三十mに沈んでいた。全ての建物はミサイルで破壊され、二つに割れた、粗悪な丸い穴あきチーズのような状態になっていた。
舞は素直な感想を艦長に伝えた。
「艦長、本当にこの中にラミエルがいるんでしょうか。施設全体も海中に水没していますし、とてもじゃないですが、生存者がいるようには思えません」
艦長は手元に小さな別の立体ディスプレィに触れて作業をしながら、説明した。
「施設が海中に沈んだのは、国連軍による攻撃のせいではない。国連軍からのミサイル攻撃の威力を弱めるために、ラミエルが計算して島の岩盤を崩したからだ。ラミエルは対地攻撃用ミサイルの威力を弱めようと、海水を盾にした」
確かに海中に沈んでいる施設は傾きがほとんどなかった。まるで、巨人が島を切り取って、海底に置いたような状態になっていた。
予め施設を水没させての防衛戦を考えれば、浸水対策は施してあるのだろう。が、島はそれでも損害を受けているように見えた。とてもではないが、人が中にいるとは思えない。
「でも、艦長。施設も、ほとんどミサイルで破壊されています。残っている部分も二つに割れています。もう施設には何らかの機能は残っていないと思われます」
艦長は舞の顔を見ずに、画面を見ながら、世間話でもするかのように答えた。
「上層部分の施設は使われていなかったら、あってもなくても同じようなものだよ。ラミエルが使用したのは、施設の下層区域にあった隔離区域を含む中枢部だ。島は頑丈な隔離区域を境に割れている。見た目は酷いが、間違いなく島の機能は生きているよ」
施設の現状を見れば、国連軍がミッション成功を信じて帰路に就いたのは無理なかった。
兎級潜水艦が残っていたので、ラミエルが無事なのも本当だろう。本当に施設にラミエルはいるのかは、艦長の口から聞かねば信じられない状況だった。
舞は艦長に、これから以降の行動を聞いた。
「でも、艦長。これほど酷い状態です。施設の中に進入できるんでしょうか」
艦長が立体ディスプレィを触れるのを止めた。艦長が立体ディスプレィを軽く指で弾いて消した。
「島の機能を完全に停める中央制御室への道のりを調べ上げたが、可能のようだ。魚雷発射菅からSDVで発進。施設にできた亀裂から進入して、中央制御室を押さえる。中央制御室に入ったら、私が自壊プログラムを仕掛けて島のシステムを破壊する」
艦内に神流毘栖から準備完了の報告が入ると、艦長から舞の脳内マイクロ・マシンに施設の地図が送られて来た。
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