第50話 原始の力とリンクするもの(六)
時間があるので、食事を摂った。食堂では皆が普段より無口になっていた。あの、リタでさえも、静かになっていた。
舞は食後に一人、ブリタニア号の画面を見ながら考えた。
(艦長はおそらく、アプス水で変異した鉄細菌を知っていた。ブリタニア号の塗装が新しくなったのも、きっと対鉄細菌用に塗料を開発していたからだろう)
国連軍に鉄細菌兵器を忠告していれば、犠牲はもっと少なかったのではないだろうか。
(故意に教えなかったら、やはり、ラミエルの仲間かもしれない。いや、ひょっとしたら忠告したけど、突拍子もない考えとして、無視されたのかもしれない)
舞も確率現実症について知らなければ、信じられなかっただろう。
ラミエルは確率現実症の研究データを持っている。だったら、都合よく鉄細菌を変異させる技術を持っていても、おかしくはない。
舞は悩んだ。艦長を信じていいのだろうか。
先ほどの戦闘データを見ていて気がついた。沈めた兎級潜水艦はブリタニア号と以前に遭遇していた。遭遇場所はオーストラリアの地底湖。
(オーストラリアの浄化プラントを爆破したのは兎級潜水艦だった。ブリタニア号がプラントにいたのは阻止するためだった、とか。だとすれば艦長はラミエルの味方ではないわ)
わかっていたのなら、WWOに報告して、警備を増やせばよかった気がする。
いや、もしかしたら、報告はしたが、大きな軍事作戦の前だから、戦力を割けなかったのかもしれない。
舞は艦長の肩書きは課長といっていたが、WWO内の上下や力関係は、全く知らない。
(艦長はもしかして、WWOの上層部と対立しているとか。WWOは大きな組織だから派閥とかもあるかもしれない。案外、派閥の力関係で十二、三の子供が艦長になったのかも)
舞はすぐに思い直した。
(艦長が上層部と敵対しているにしては、自由に行動を許されている。ブリタニア号には二発だけど、弾道ミサイルも積める。信頼のない人間には、やはり任せられないはず)
舞の頭に、別の可能性が浮かんだ。
(まさか、艦長はラミエルともWWOとも違う道を行こうとしているのではないのかしら)
ガーファンクルはただ現状を見守っていると思った。
だが、ひょっとしたら艦長と一緒に世界を救う独自の計画を持っていたのではないのか。
(でも、だったら、相談してくれればいいのに)
いや、相談できない計画なのかもしれない。大勢の人を救うために、少数の人間に犠牲を強いる計画かもしれない。
犠牲を目の前にして舞が躊躇うと思ったらから、秘密にしているのかもしれなかった。
(もしかしたら、生贄の羊は確率現実症を持つ私自身かもしれないわね)
世界のために喜んで犠牲になる気はないが、この世界には大好きな両親も友達もいるのだ。絶対に犠牲になりたくないと思えるほど、生存願望も強くはなかった。
舞はもうすぐ、何か大きな決断をしなければならないような予感がした。
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