第七章  原始の力とリンクするもの

第45話 原始の力とリンクするもの(一)

 舞は急に入院させられたと思ったら、今度はさっさと病院を追い出された。

 艦長に連絡を入れると、ベッキーも検査入院を終えたから、一緒に帰って来なさいと言われた。


 舞がベッキーを待合室で待つ間、ニュース・サイトを見ると、大きなニュースが飛び込んでいた。


 ニュースを見て、なぜガーファンクルがああも疲れていたのか、理解できた。舞が入院している間に、パラオ近海で大規模な戦闘があったのだ。


 ニュースは昨日、国連軍のアジア・オセアニア艦隊がAI軍艦を保持するテロリストに勝利した、という内容だった。


 テロリストと、なっていたが、国連の相手はラミエルだろう。

 ニュースではテロリストがいかに凶悪かつ危険だったかを説明するために、起した事件について列挙していた。


 ラミエルが起した事件とされる中には、舞が見たオーストラリア地底湖でのアプス水浄化プラントの爆破事件も入っていた。


「ブリタニア号が爆破したんじゃなかったのね」

 舞は一瞬、安堵した。だが、すぐに用心した。報告書の改竄は不可能でも追加は可能だ。


「私の潜水艦らしき影を見た後に、プラントが爆破されたという報告を、艦長が見た。艦長は疑惑を持たれないように、WWOに追加で何か報告をしたのかも」


 舞は艦長を疑っていたが、完全に疑いきれなかった。

「だけど、もうどっちでもいいわ。ラミエルの計画はもう終わったのだから」


 ニュースを見ていくと、ラミエルの死については触れられていなかった。だが、拠点となっていた島はミサイル攻撃により海底に沈んだ、とあった。


 ラミエルが討伐されるのは、当然の成り行き。

 ガーファンクルの話を聞いた後では、ラミエルが負けたニュースに興奮も喜びもない。


「ラミエルが負けた。これでもう、海で船が襲われることはない。世界には変わらず雨が降り続けるのね」


 舞は待合室のソファーに深く腰掛けた。

「どうせ倒すのなら、なぜもっと早くしなかったんだろう」


 もう少し早ければ、オーストラリアのプラントが破壊されずに済んだのではないか。


「いや、違うかな。国連軍が集結した時期だからこそ、警備が手薄になったプラントを破壊できたのかな」


 どちらにしろ、ラミエルとの件は呆気なく終わったと思った。もう、ラミエルに会うことも一切ないだろう。


 舞の名を呼ぶ声がした。顔を上げれば、ベッキーがいた。舞はベッキーと共に、ブリタニア号に帰っていった。


 舞とベッキーが帰ると、ブリタニア号の黒い色が、濃くなっていた。塗料の上塗りしたようだった。


「あれ、でも、塗装の状態は悪くなかったはずだけど」

 塗料の上塗りは、ベッキーにも意外なようだった。ベッキーは顔を近づけて発言した。


「WWOの艦船で使用している塗料とは違うね。新型塗料の試作品かなー。あれ、でも、舞ちゃん、塗装しているところを見なかったの」


 舞は入院していた事実を話そうかとも思った。でも、病気の状態が激しく異常なだけに、話したくなかったので、話を適当にはぐらかし、ブリタニア号に乗り込んだ。


 舞とベッキーが帰ると、ベッキーの快気祝いをかねて、ブリタニア号内でささやかなお祝いの席が設けられていた。

 本来、ブリタニア号は禁酒禁煙だが、飲酒に関しては時おり艦長が許可を出していた。

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