第42話 艦長これは反乱です(八)
ブリタニア号が双子鰐島に帰ってきた。島はいつもと変わらなかった。でも、潮の臭いが気になった。
「なんだろう、少しだけど、海草や魚が腐ったような嫌な臭いがするわ」
舞は同時に島を覆う、不吉な気のようなものを感じた。
ニュースをチェックしたが、目新しいものや、大きな事件は報道されていなかった。報道されていないニュースには、オーストラリアのプラントが破壊された事件も含まれた。
臭いについて、ブリタニア号の皆にも聞いたが、気にならない、異常はない、という答えが返ってきた。
ブリタニア号が帰還すると、ベッキーは艦長の命令で、検査入院となった。
舞は艦長の命令でベッキーに付き添って、双子鰐島の医療施設に従いていった。
ベッキーを送った帰りに、双子鰐島の医療施設にある中庭に寄った。
以前、艦長室に忍び込んだ時に撮影した写真を手元の立体ディスプレィに映し出し、見比べた。
舞は写真の微妙に異なる点に気が付いた。確かに、旧約聖書のノアの方舟をモデルにした、黒御影石の噴水は同じだが、周りに生えている草の青さが違う気がした。
黒御影石の方舟を象った噴水に近付いた。舞は噴水の横にある桜の木をじっと見つめて気が付いた。
「あ、桜の花びらの形が違う。これは桜じゃない」
中庭の前の通路から見れば、ピンクの花が見えたので、桜だと思った。が、近付けば花弁が見慣れた桜の花より大振りな気がした。
花弁の形から植物事典を検索した。目の前にあるのは、チョンブー・バンティップ。通称。タイ桜といい、日本で咲く桜の仲間ではない。
舞は花ではなく、幹に注目した。すると、写真の桜とも違っていた。
違った点に気が付くと、「双子鰐島」という名称も気になった。
「そういえば、双子という割には、近くに同じ島はないわ。もっと小さな島はならいくつもあるけど。まさか、ここと同じような島が、どこかにもう一つあるのかしら」
舞はWWOの施設を検索した。該当する施設はなかった。なかったのだが、舞は島がもう一つ存在すると思った。
WWOの秘密の島。もう一つの双子鰐島に、守お祖父ちゃんは隔離されていたのではないだろうか。
背後に近付いて来る誰かの気配を感じて振り返ると、看護師の格好をしたリサがいた。
「舞、よく来た。さあ、こっち」
リサが舞をどこかに連れて行こうとしたので、舞は間違いを指摘した。
「今日は診察じゃないわ。ベッキーの付き添い。ベッキーはもう病室に向ったから、私はブリタニア号に帰るとこよ」
舞はやんわりと答えたが、内心では警戒した。不意に現れるリタは、偽者かもしれない。
疑われると知らないリタは、ニコニコして返した。
「いや、舞も入院だよ。ガーファンクルが言っていたよ。予約も入っているし」
舞は念のために、病院情報システムにアクセスした。すると、確かにガーファンクルの依頼で検査入院となっていた。
リサは舞の手を引いた。
「さあ、行こう、舞。心配無用だ。前回入院時の下着とかタオルとか綺麗に洗ってしまってあるから、すぐに検査に行けるよ」
舞はリサがおかしな所に連れて行こうとするなら、声を上げて抵抗する気だった。が、リサは前回、病室から出てきた道を逆に通って、以前の病室に舞を案内した。
舞は病室で病衣に着替えて待っていた。すると、ガーファンクルから映像付きのメールが届いていた。
映像のガーファンクルは、せかせかした口調で、舞にメッセージを残していた。
「舞。急遽、予約でいっぱいだった最新検査機器の順番に、空ができた。悪いが、後ろが詰まっているから、すぐに検査を受けて欲しい。艦長に、私から話をつけておく。今ちょっと忙しいから、すぐには面会に行けそうにない。検査結果が出たら会いにいくから。なんかあったら、リサに言ってくれ。頼むよ」
ガーファンクルからのメッセージは本物のようだ。いつも気遣ってくれるガーファンクルが会えないというのは、かなり忙しいのだろう。理由は、わからないわけでもない。
「もしかしたら、オーストラリアのプラントが破壊されたから、緊急対策会議とか入ったのかな」
舞はもう子供ではない。一人で検査くらい受けられる。地底湖で高濃度のアプス水の霧を大量に吸い込んだのだ。どこか影響が出ていてもおかしくはない。
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