第39話 艦長これは反乱です(五)

 舞は着替えると、ベッドでごろりと横なって思った。

「二十歳になってから、人生は不幸の下り坂よ」


 年上のガーファンクルに欺かれ、年下の神流毘栖に罠に嵌められた。

「これから先、どうなるんだろう。軍事法廷というところに送られるのかな」


 舞は鬱ぎ込んだが、後ろ向きな考えを変えた。


「いや、悪く考えるのは止めよう。ベッキーが助かったんだもの。ツキがないわけではないわ。むしろツイているわ。遭難からの帰還、ベッキーの発見、ブリタニア号の救援。奇跡の三連発だもの」


 舞は自分の言葉に違和感を持った。出来すぎではないだろうか。ベッキーと自分の遭難は、救助側におおまかな場所が特定されていた。


 二人遭難、二人救出という事態は、起きてもおかしくはない。だが、ブリタニア号による救出は、明らかに変だ。


 舞はよく考えた。

「オーストラリア大陸の地底湖から海にアプス水が流出しているんだから、海と湖を繋ぐトンネルがいくつかあるのは、当然よね。でも、なぜ、リタは勝手に地底湖に来たのかしら」


 リタの意思だとは思えなかった。艦長の命令があったのではないだろうか。

 プラントを魚雷で爆破した大きな影を思い出した。大きさはブリタニア号並みと思った。が、あれはブリタニア号そのものじゃなかったのだろうか。


 もし、ブリタニア号がプラントを破壊したのなら、地底湖で遭遇しても偶然ではない。


 思い起こせば、艦長が捜索を開始する前に、プラントに寄ると言っていた。

「艦長が、プラント内から何かを秘密裏に手に入れようとしていたと仮定したら」


 艦長が目的の物を手に入れる前にティルト・ローターが襲撃に遭った。ティルト・ローターが一度ダーウィンに帰還しなければいけなくなる。


 舞とベッキーがプラント付近で遭難したので、どちらかが艦長より先にプラントに辿り着く危険もあった。


 艦長が目的の物が自分やベッキーの手に渡るなら、いっそプラントもろとも破壊してしまえと考えたのだろうか。


 指示を出す機会はあった。艦長がダーウィンに戻った時だ。


「もしかしたら、事前に想定してあったのかも。艦長なら大陸と海を結ぶルートの詳細な情報を知り、事前にブリタニア号登録しておくことも可能よね」


 艦長がダーウィンに帰還してから、ダーウィンからブリタニア号が出発すると仮定する。


 ブリタニア号がプラントに到着するまでの時間を大雑把に計算すると、十六時間くらい。


 ダーウィンからは直線距離で約四百五十kmある。

 海からの距離を計算するのに、単純に倍で約九百km進むとする。


 必要な速度は平均三十四・七ノット。


 ブリタニア号の最高速度は八十ノットだから、不可能な数字ではない。ブリタニア号はAI支援により、移動だけなら、無人。停止する目標物に魚雷を当てるにしても、一人でも可能。


「艦にリタ一人が残っていても、プラントの移動と破壊は可能よね」

 舞は艦長に対して銃を向けていた時の状況を思い出した。


「艦長の態度が冷静だったのは、ブリタニア号が近くにいるのを知っていたからだとしたら、説明がつくわ」


 艦長はベッキーを救出後、ティルト・ローターを動かし、水面から島に移動した。

 当時は、安定な場所に移動するためと思った。だけど、実は何らかの不測の事態に備えて、リタとの連絡場所が決めてあったとしたら。


 偶然にリタがブリタニア号が見つけたというより、艦長陰謀説のほうが正しいような気がしたが、仮説でしかなかった。


 証拠になりそうなものはない。

 拾った薄型コンピューターを思い出した。


 舞はブリタニア号のシステムにアクセスした。すると、権限がまだ停止されていなかったので、可能だった。


 拾った薄型コンピューターのスイッチを入れた。舞は薄型コンピューターの画面に表示される言語が何語なのかをブリタニア号のシステムで調べた。


 ほどなくして、判明した。言語はタイ語で、ユーザー名はパヨーム・クンラウォン。


「確か、リタはリタ・クンラウォンって言っていたけど、まさか、家族」


 クンラウォンという姓がタイでどれほど多いかわからない。ひょっとしたら、日本でいう、佐藤、鈴木、高橋に当るのかもしれない。単なる同姓という可能性もあった。


 倒れていた人物の印象を思い出した。今になって思えば、どこかリタに似た雰囲気があったかもしれない。


 リタは兄が二人いると前に教えてくれた。もし、そうならリタの兄弟姉妹は、艦長の秘密の部下なのだろうか。


 考えすぎ、よね。だが、リタは謎が多い。いや、謎と言う観点から言えば、神流毘栖は十四で潜水艦のクルーで副艦長、艦長にいたっては十二、三で潜水艦の艦長をしている。何か理由があるはずだが、全く見当がつかなかった。


 考えが袋小路に入ると、疲労感を強く感じた。

「なんだか疲れたわ。無理ないかな。少し前まで遭難者だったんだもの」


 舞はなんだか眠くてどうしようもなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る