第38話 艦長これは反乱です(四)

 ベッキーを医務室に寝かせた。舞はリタ、艦長、神流毘栖とともに、一度、発令室に集まっていた。


 何はともあれ、上手くいったと思った。

 舞が安心したところで、神流毘栖は舞に手を差し出して、促した。


「さあ、舞、要求は叶えたぞ。おとなしく、武器を渡して投降しろ」

 舞は神流毘栖が何をいいたのか、すぐには、わからなかった。


 神流毘栖が言葉を続けた。

「これはお前のためだ。自発的に投降すれば、罪は軽くなる」


 艦長に銃を向けたのは認める。危険な要求をしたのも認める。罪と問われるのも覚悟している。


 だが、神流毘栖も一緒に反乱を起したではないか。なのに、神流毘栖の言い方では舞一人が悪者だ。


 舞は神流毘栖に慌てて抗議した。

「え、ちょっと、神流毘栖、何を言っているの。あなただって仲間じゃないの。艦長にこれは反乱ですって、言ったでしょう」


 神流毘栖は何を言っているんだという態度で、切り返した。

「勝手に仲間、呼ばわりするな、反逆者め。私は反乱には加担していない。私はただ、反乱が起きた事実を、客観的に艦長に伝えただけだ」


 神流毘栖は普段から感情をあまり、出さない子だ。が、今回の発言は明らかに冗談ではないようだった。


「何を言っているの。要求に従ってくださいとも言ったじゃない」

 神流毘栖は銃を渡すように仕草のまま、冷淡な弁護士のように理論を述べた。


「確かに、言った。艦長に自制を促すためにな。艦長が錯乱して、舞に飛び掛かり、不幸な事態を招かないようにするための、当然の発言だ」


 舞は、神流毘栖にまんまとやられたと思った。神流毘栖は当然、仲間としてベッキーを探すために一緒に反乱を起したと思い込んでいた。


 いや、神流毘栖がそう仕向けた節がある。

 神流毘栖はベッキーが助かった時、反乱者とならないように、先手を打っていた。


 思い起こせば、神流毘栖は反乱と推定される行動は、何一つ起していなかった。

 舞は神流毘栖の変わり身に、抗議した。


「ちょっと、神流毘栖。それは、酷いわ、酷すぎるわよ」

 反乱の罪と問われれば、主犯は自分で、神流毘栖の罪は軽いと言うつもりだった。


 けれども、お前一人が悪いといわれれば、話は別だ。

 神流毘栖は舞から顔を背けて、艦長を見た。


「艦長は、私も反逆者とお思いですか」

「いや、神流毘栖君の弁明を聞き、記憶を振り返れば、法廷で君を反逆罪に問うのは難しいだろうな」


 神流毘栖が、口元に悪意を、目に勝利を浮かべて、再度、促した。

「さあ、舞。もう一人で戦うのをよせ、目的は達せられたのだろう。武器を捨てて投降するんだ」


 舞は負けを悟った。舞は銃を乱暴に神流毘栖に渡した。神流毘栖に裏切られたと思ったが、神流毘栖にとっては当然の行動なのかもしれない。


 神流毘栖にとってベッキーがいれば、舞は不要なのだ。


 事態がよくわからないが、反乱と聞いて、なぜかリタは陽気になった。ブリタニア号に営倉はない。舞は、はしゃぐリタの手に背中を押され、自室に監禁された。

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