第三章 初任務で核戦争勃発?
第12話 初任務で核戦争勃発?(一)
艦長室は、舞の部屋の三倍弱ほどの広さがあった。が、あまり豪華といえない造りだった。艦長室は、船室と個人弁護士の書斎を併せたような雰囲気だった。
艦長は舞に椅子を勧め、向かい合って座った。
舞は艦長と向き合ったが、こうして近くで見ると、やはり艦長は子供に見えた。見えるのだが、子供の持つ可愛らしさは感じなかった。
艦長の持つ独特の雰囲気、褐色の肌、白い眉は、舞ですらどこか魅力を感じた。
(あと、十年したら、かなりいい男かも)
艦長がカモミールの香りが漂うハーブ・ティが入った白いカップを、舞の前に置いた。
「さて、舞くん。何か聞きたいことはあるかね」
「艦長は、私の奇病について、ドクター・ガーファンクルから詳しく聞いていますか」
当然だと言わんばかりに、艦長は答えた。
「もちろんだ。私は艦長でもあるが、医師でもある。ブリタニア号に乗っている人間は全員、水分子奇病を発病している。私も含めてね」
ベッキー、神流毘栖、艦長については、外見から奇病を予想していたが、リタの奇病は少々意外だった。
艦長は何も問題ないというように、平然と説明を続けた。
「全員の症状は、今は安定している。アプス水による奇病の変異や、症状の進行は起きていない。舞君の病気も安定している。とりたてて大きな問題を起すとは思っていない」
舞は胸を撫で下ろして安堵した。
「よかった。確率現象症に罹っていても、原子炉に事故を起させる危険はないんですね」
「いや、事故を起す確率上昇を止めるのは不可能だ。が、現状では無視できるほど小さいと私は考える。そもそも、ブリタニア号はアプス水による災害復興を研究するための艦だ。ブリタニア号は中からも外からも、アプス水による影響を受け難い設計になっている」
舞は気になっていた、次なる疑問をぶつけた。
「じゃあ、なんで研究のために弾道ミサイルなんて物騒なものを積んでいるんですか? やはり、水分子奇病になった人を……」
最後は怖くて、ハッキリ発音できなかった。が、舞の言葉を聞いて課長は鼻で笑った。
「誤解があるようだな。確かに弾道ミサイルは積んでいる。もちろん弾頭は核ではない。アプス水を消去する対アプス水分子を外気圏まで打ち上げるためにミサイルを積んでいる」
舞は少し恥ずかしかった。確かにベッキーは「核弾道ミサイル」だとは言わなかった。
「あ、そうだったんですか。よかった、てっきりブリタニア号は研究用目的の艦ではなく、軍用目的だと思ったので」
艦長はすぐに、舞の言葉を冷静に否定した。
「いや、必要とあれば戦闘もする。武器の扱いから初めて、兵器の操作もベッキーに習ってもらう。時機に必要になるだろうから」
戦闘なんてしたくない、という舞は淡い希望は打ち砕かれた。だが、拒否はもう難しい段階に来ているのも明白だ。
「その、戦闘は頻繁にあるんですか」
艦長はハーブ・ティを飲みながら、世間話をするかのように事実を告げる。
「何を持って頻繁とするかは知らない。だが、直近の戦闘は二週間前で、海賊船を魚雷で沈めた」
(魚雷で海賊退治!)
どう考えても、奇病対策とは関係ない仕事に思えた。海賊退治なんて、やはり傭兵の仕事ではないのだろうか。
(やっぱり、今回のミッションが終わったら降りようかな。病死の前に戦死って事態になるかもしれない)
降りるなら、決断は早いほうがいい。舞いは殺されるのも嫌だが、殺すのも嫌だった。
だが、一番嫌なのは自分が殺すのを躊躇ったために、ベッキーや神流毘栖が犠牲になる事態だ。
舞が黙ってしまうと、艦長が上官口調で聞いてきた。
「舞君、君は護られるのが好きかね」
舞は正直に心境を告げた。
「どうしようもない事態ならともかく、できるだけ自分の身は、自分で護りたいです」
「では、他人を護るのは嫌いかね」
舞は艦長の誘導するような言葉に少し反感を持った。
(艦長は私に戦うのを、認めさせようとしている)
舞は捻った答を返そうかと思った。が、考え直し、素直に答えた。
「他人が助けを求めてきたら、助けたいと思います。でも、暴力は苦手なんです。できることと、できないことがあります」
艦長は目を瞑って、どこか自分自身を悔いるように言葉を発した。
「そうか、なら、できる範囲でいい。私を助けてくれ」
艦長の態度はどこか不釣合いだった。
言葉だけを考えれば、乗員として働いて欲しいという意味合いだろう。だが、舞は艦長の態度には乗員として働く以上の何かを求められている気がした。
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