第3話 私は病気なのでしょうか?(三)
自分は死んだのだろうか?
宙に浮く舞は、安っぽいダンボールの棺を、上から見ていた。棺の顔の部分は閉まっていて見えない。
葬儀用の祭壇には、白黒のリボンが掛けられた舞の遺影が見えた。遺影の写真は写りが悪いが、舞の顔だった。
「これは、どう見ても私の葬式よね?」
弔問客は皆、知らない顔だった。やがて、誰からともなく、舞の体が入った棺を持って、喪服を着た人間は外に出た。
外は真っ赤な荒野で、どんよりとした灰色の空が広がっていた。
荒野には、大穴が空いていた。穴からは白い靄が立ち上っていた。穴の底は見えない。
荒野に空いた大穴に向かって、喪服の人間は舞の棺を運んで行った。
遺体が入った棺がゴミのように、穴に捨てられるのに舞は不服だった。けれども、どうにもできない。
どこからともなく、静かな音楽が流れてきた。
「いわゆる、お別れの時ってやつかしら」
棺を穴に捨てる段階になると、厚い雲に覆われた空が真っ白に輝いた。
舞は白く輝く空を見上げて思った。
「天使が来るのかな」
腕に強い痛みを感じて、舞は飛び起きた。天井にある大きな白い照明が見えた。
「あ、ごめん、痛かった」
横で女性の声がした。舞が声の主を見ると、薄緑がかった白衣に身を包んだ舞と同じくらいの女性がいた。
女性は黒髪のショートカットで、肌は浅黒かった。アジア人のようだが、日本人ではなさそうだった。
天使ではないのは一目瞭然。舞は先ほど夢を見ていたのだと理解した。
(葬式の夢って、初めて見た)
夢は覚めてしまえば、とても嫌な感覚を残していた。
女性を良く見ると看護師で、舞に点滴を行っているようだった。
点滴の袋に書いているある文字は、英語だった。
今いる場所は日本ではないのかもしれないと、舞は思った。
女性は、ニコリと笑った。
「私は、リタ・クンラウォン。皆は、リタと呼ぶよ」
リタは握手を求めるように手を出した。舞は雰囲気で握手を返そうかと思った。が、リタの胸にWWOの文字を見つけて、手を引っ込めた。
(WWOって、私を襲った組織じゃないの)
リタは、WWOの文字が書かれた胸に向けた舞の視線に気が付いた。
「WWOって、国連機関のWWOだよ。偽物じゃないよ。本物のWWOだよ」
(やはり、誘拐したのは世界水機構の人間だった。だすると、とりあえずは安全かしら)
リタは笑顔のまま、差し出した手を引っ込めない。舞は握手しないのが悪い気がしたので握手を返した。
「私は、若水舞。それで、ここは、どこですか」
「
聞き覚えのない島だった。
舞が自分の体を見ると、ずぶ濡れになった私服ではなく、ベージュ色の病衣を着ていた。
「医療施設って、どうして私が――」
舞は気が付いた。WWOはアプス水による水分子奇病対策も行っている。
自分の考えに驚き、舞は大声を上げた
「え、私が水分子奇病の感染者!」
リタの顔が少し曇り、舞から明らかに数歩の距離を取った。
「うん、というか、正確には発病者ね」
リタは、とても簡単に重要事項を告知した。
舞は自分の葬式夢を見たが、夢は正夢になろうとしていた。
舞はリタの言葉を頭では受け入れたが、心で受け入れられず、思わず笑ってしまった。
「はは、あれは人生の予告編っていうやつ。続きは劇場でとか、はは、ははは」
リタは告知を済ませると、舞から後ずさりしながら距離を取ってゆく。
「じゃあ、告知したから。予後とかは医師に聞いてね」
舞は脳内に埋め込んであるマイクロ・マシンから、予後について電子辞書を調べる。
【予後】①病気の推移を医学的に予想すること。➁終末期における余命を予想すること。
【デジタル大辞天】
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