第1話

んんっ……?


眠りから覚めると、

視野に変なウインドウがちらつく。Windowsフォルダのような画面だ。

目の前の違和感はまだ夢の中を彷徨さまよっているかのような錯覚さっかくを呼び起こした。


しかし夢ではない。頬をつねった時に感じる痛みは厳然げんぜんたる現実だった。

いつもと変わらない部屋。

全てがいつも通りだ。

狭い浴室付きの部屋にこれといった変化はない。


変わったことと言えば、視界に映りこむ異物だ。目の錯覚かと思い、目をこすって浴室で顔も洗ってみても、どうしても視界にちらつくウインドウは消えようとしない。


俺がおかしいのか?

いつも部屋に引きこもっていたせいで脳の神経がどうにかなってしまい、幻覚でも見えているのか? 視神経を何かが圧迫しているとか?


こういう時は検索だ。

俺はベッドから起き上がりパソコンの電源ボタンを押した。

しかし、パソコンは起動しようとしない。故障かと思い本体を開けて中を見てみたが、特に問題はなさそうだった。昨日まで何ともなかったパソコンだ。


何だかいらいらしてきたが、ひとまず我慢することにして携帯電話を手に取った。しかし、携帯電話もまたインターネットに接続できない。


こいつはどうだ、床で充電中だったノートパソコンを膝の上にのせ、電源ボタンを押す。


結果は絶望的。

これもまた起動しようともしない。


昨日まで何の問題もなかったパソコンとノートパソコンが同時に?

何が何だかわからない混乱の中で、左手に持っていた携帯電話の画面を再度タッチしてみた。

俺にだけこんな現象が起きているのかと気になり、友達の番号を押して待ってみた。

しかし、これもまた不通。

俺はくそっと吐き捨てながら、手当たり次第に知人に電話をかけまくった。

結果は同じだった。さらに両親までも電話に出ない。なぜか呼び出し音すら聞こえなかった。


どうやら、今のこの状況は全てインターネットに接続できないことと何か関連があるようだ。この世の終わりでも来たのかも知れない。そんな思いで外に飛び出してみたが、外は平凡だった。いつも通り平凡へいぼんに歩いている人びと。


家に戻り、ベッドに腰掛けた俺は現実と向き合うことにした。依然として、目の前にちらつくウインドウ。

結局、この全ての現象はこれと関連があるのだろう。

間違いであることを願ったがもう避けられない現実。


俺は目の前の小さなウインドウをじっと見つめた。どんなににらみつけても無反応。

そこで、視野に映り込むウインドウに指を持っていった。


すると、驚くことに目の前に2つのメッセージが現れた。パソコンのウインドウが開くかのように現れたメッセージ。半透明なウインドウの上には文字が鮮明に刻まれていた。


[状態]

[アイテム]

[セーブ]

[ロード]


「…………?」


何だろうこの非現実感は。

瞬時に現実感が消えた。だが、もう一度頬をつねって叩いてみても夢ではなかった。痛みが脳へとそのまま伝わってくる。


非現実だけど現実?

[状態]と[アイテム]

そして[セーブ]と[ロード]

どう見てもゲームの中で出てくるあれだ。


何が何だかわからなかったが、押してみたらわかるだろう。

俺は指を[状態]へ持っていった。


するとすぐに半透明なウインドウが別のウインドウに変わる。


長谷川はせがわ りょう

年齢:25歳

職業:ニート

レベル:1

体力:55

魅力:12

所持金:5,010,130円

経験値:0


現れたウインドウに羅列られつされたのは俺の個人情報だった。年は25歳。正確な情報だ。しかし、レベルやら体力やらは意味不明だった。しかし、所持金は正確だった。ニートだが、アルバイトで稼いだ元金50万円を株で少し儲けたため500万円になっていた。


勿論、俺が株に卓越たくえつした才能があってお金を増やせたわけではない。ゲーム友が教えてくれた情報のおかげで少し稼げたとでもいおうか。ただそれだけだ。


そんな全財産が透明に公開された[状態ウインドウ]

やはりゲームだ。


そうなると[セーブ]と[ロード]も?

[セーブ]をタッチするとメッセージが出てきた。


[セーブしますか?]


セーブをタッチするとメッセージの下のプログレスバーが埋まりつつ、5月2日10時30分というメッセージがでてきた。見たところ、セーブできる空間は1つだけだった。他のゲームのように、いくつかのセーブポイントを作っておくのは不可能に見える。


慎重に使用しろということだろう。間違ったセーブはゲームを迷宮入りさせる。


とりあえず[ロード]を押してみると[セーブ]の時と同じく5月2日10時30分と書かれたウインドウがでてきた。


[ロードしますか?]


メッセージが現れる。

時間は10時33分。時間を確認した俺はすぐにメッセージをタッチした。とにかく実験をしてみる必要があった。すると急に視界が白く変わり現実に戻た。急いで時計を確認すると正確に10時30分22秒。


俺は過去に戻っていた。ちょうど3分前へと。

これは本当だ。本当にゲームの中だ。冷や汗をかく。興奮と驚きが入り混じって何とも言い表せない気分。面白いじゃないか。現実がゲームになるとは。


ゲームとなると、結局クリアすれば本来の世界に戻れるということなのだろう。少なくともゲームの中に入り込んでしまったのは、何か理由があるはずだ。そう考えると、目の前のゲームウインドウをもう少し深く分析してみたくなった。

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