第一九四編 コンビニおでん
★
「いやー、やっぱりたまに食うとすげー
「分かる分かる。家のおでんとはまた違った良さがあるよねぇ」
「なー。どうだ
「う、うん、すごく美味しいけれど……」
夜のコンビニ前の鉄柵に腰掛け、ダシがたっぷり染み込んだおでんのたまごを一口頬張りながら――久世はなにやら遠い目をして言った。
「……なんで僕たち、遊園地帰りにコンビニおでんなんて食べてるんだっけ……?」
「は? 前に話しただろ、今度コンビニおでん食いに行こうぜって」
「いや、確かに言ってたけどそうじゃなくてね……」
――朝から一日中遊園地を堪能した俺たちは、
まあ疲れたということは七海も今日一日、それなりに楽しんでくれたのだと思っておこう。……おそらく疲労の原因の大半は苦手な絶叫系アトラクションに連続搭乗したせいだとか考えてはいけない。何事もポジティブシンキングが大切だ。
ともあれ挨拶もそこそこに
三月とはいえまだまだ寒い夜、夕食から数時間が経過したことで程よく
それを見た俺と桃華は、まだ落ち込みモードの久世の両手を引いて買い食いと洒落こむことにしたのである。
ちなみにこの場は俺の奢りだ……先ほど久世の撃沈を笑ってしまった罪滅ぼしの意味も込めて。
「コンビニと言えば、最近はコンビニスイーツとかも美味いよなぁ」
「あっ、あれも美味しいよねぇ。私生チョコのやつ好きー」
「俺はロールケーキだな。あの生クリームが大半
「話してたら食べたくなってきちゃった……でもこの時間に食べたら絶対太るよね……」
「そういやスイーツ類も一〇パーセント引きって書いてあったような――」
「買ってくる!」
「迷いなしかよ」
桃華はもうちょっと太った方がいいと思うので気にする必要などないとは思うが。しかし七海といい桃華といい、俺の周りの女は甘味に対する我慢が
そんなことを考えながらおでんのつゆを
「……悪かったな」
「え……? な、なにがだい?」
「お前が七海にあんなこと言い出したのって、昼頃に俺が変なこと言ったからなんだろ? だからその……悪い」
今思えばあれは、俺がお化け屋敷を出た後に「七海は久世のことを名前で呼ばないんだな」などと言ってしまったせいだったのだろう。改めて反省し頭を下げると、久世は「ち、違うよ!」と声を上げた。
「……違うんだ。僕はただ――
「……」
それを聞いて、脳裏にかつて一度だけ真剣に考えたことがある馬鹿な妄想が
「……でも、本当は分かっていたんだ。もう未来は僕のことを友だちとも思っていないことくらい。あんなこと聞くまでもなく、とっくに分かっていたんだよ」
久世は黙ったまま大根を食らう俺に苦しいような、寂しいような――そんな微笑を向けてくる。
「だけどそれでも……僕は彼女に名前で呼んで欲しかった。もう一度だけでいいから友だちのように――
そう言ったイケメン野郎に、俺は口の中の大根を飲み込んでからはあ、と息を吐く。おでんを食べているせいか驚くほど真っ白に染まる吐息が霧散してから――俺はなんとなく空を見上げながら、隣に座る久世にも聞こえないような声で呟いた。
「……本当に面倒臭い奴だよな――俺は」
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