第一九二編 対極
★
「
「おー」
観覧車から降りてきたらしい
「(ぐぎぎ……! どうして
四人で遊園地で遊ぶだけなら大人の余裕――実際は年下だが――を見せられた彼女だったが、男女二人であんな狭いゴンドラに二人きりだなんて
特に美紗は寸刻前にとあるギャルに騙されて……はいないが、致し方ない勘違いのせいでショックを受けたばかり。八つ当たりに近いイライラが負の相乗効果を生み出してしまっていた。
「ごめんね、二人とも。僕たちだけで……」
「い、いや気にすんなよ。そもそも俺に関しちゃ自分でパス
「え゛っ」
「人をマゾヒストみたいに言わないで貰えるかしら」
「(そうよ! それもこれも全部
未来のコートに仕込んである盗聴器から数分前に二人が交わしていた会話を聞いていた美紗はギロッとした視線を少年に向ける。
「?」
「どうかした、悠真?」
「い、いや……なんかどこかから殺気を感じたような気がして」
「え、なにそれ格好いい」
キョロキョロと周囲を見回す悠真に、危うく柱の陰に身を隠した美紗はホッと息をつく。
実際は彼には既に美紗が
『――美紗お嬢様』
「! どうしたの、
不意に無線イヤフォンから
『閉園時間も近付いておりますので、以降周辺警戒は代理の者に引き継がせていただきます』
「ええ、分かったわ。
『はい、
本郷は表向きには未来たち四人の送迎役としてここに来ているので、美紗が頼んだ仕事に従事できるのはここまでだ。といっても彼らが遊園地を出る時点で美紗たちも同じく引き払うことになるのだが。
「(……お姉ちゃんも楽しめたみたいね……いつもよりよく笑ってたし、
日頃から人間関係以外は完璧な姉があんな風に怖がったり強がりを言ったりするのは本当に珍しい。それを引き出したのが
「(……真太郎さんと桐山先輩のことがなければ、私も……)」
――もっと素直に、彼のことを認められていたんだろうな。
「(……ま、まあ関係ないけどね! お姉ちゃんの友だちだからって、私の恋を邪魔するなら敵よ敵、うん!)」
美紗にとっての最優先事項は己の恋。それはなにも変わらない。
こと恋愛において勝者以外は等しく敗者だということも、故に勝者になりたくば利己的であらざるを得ないということも。
正しく恋をする者は、周りを
惚れた相手を他の誰よりも幸せに出来るのは自分だと確信していればそんな考えは起こらないはずだ。自分以下の誰かのために〝失恋〟するなどあり得ない。
「(――そんなの、自分に自信がないというだけのことよ)」
小野悠真は、二人きりで観覧車に乗った真太郎と桃華のことをどう思ったのだろうか。
少なくとも彼に後悔の色は見えない。上手く隠しているだけか、それともとっくに吹っ切れているのかは分からないが。
「(……あの人が桐山先輩と結ばれたいと願うなら、協力してあげないでもなかったのに、ね)」
それは
「(……つくづく馬鹿な人だわ。そんな馬鹿な真似をしてさえいなければ、あなたが幸せを勝ち取る
実際には、それは前提条件を
美紗が今、多少なりとも小野悠真という男を評価している理由の一切は、彼がそんな〝馬鹿な真似〟をするような人間であったことに起因する。
真太郎と友情を育み、あの姉に認められ――自ら〝敗者〟となることを選んだ愚者。利己的な
「(……本当、あんな馬鹿な人、そうそう居ないよ)」
言葉の割には穏やかな表情で、美紗がそんなことを考えていたその時だった。
「あ――あの、
――桃華と並び立っていた真太郎が、一歩前に踏み出したのは。
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