第九七編 ベスト・フレンド⑪
「……三人?」
教室のど真ん中で叫んだ
「えーっと、つまりそのクリスマスデートには
「そ……そういうことです……」
周りから見られているせいか、それとも単に〝クリスマスデート〟という単語が恥ずかしいのか、とにかく顔を真っ赤にさせながらも桃華が頷く。
「……
「シズカ、あんたちょっとうるさいから黙ってて」
「なんでやねんっ!? モガッ!? ちょ、マジで
「で? それ本当なの?」
「う、うん……だからとりあえずシズカちゃんを解放してあげて」
桃華はやかましいシズカを容赦なく黙らせる友人に若干引きつつ、依然として頬を赤く染めたまま言う。
「その、最初は喫茶店のバイト三人でご飯に行こうよって話だったんだけど……直前になってもう一人の子が来られなくなっちゃったから……結局、二人で……」
少し言いづらそうにする桃華。
まあそれもそうか。この話の流れだと、「久世と二人きりになったのは
「……もう一人って、あれか? 桃華とやよいと幼馴染みとか言っとった……えーっと、名前忘れたけど、四組の
「あー、言ってたね。もう一人幼馴染みがいるんだよーって。……アレ? でもたしか三組って言ってなかったっけ?」
「それはどっちでもいいでしょ。つまり最初は男二人引き連れてクリスマスを過ごすつもりだったわけだ」
「いや言い方に悪意がありすぎない!?」
「おいお前、やっぱり
「とりあえず落ち着けシズカ。そして涙を拭け」
「お前ッ!
シズカを中心に騒がしさを取り戻していく教室。
周囲に目を配ると、何事かと注目していた生徒たちも胸を撫で下ろしつつ、今の話をヒソヒソと共有し始めている。
「(……よし、これでいい)」
――人の口に戸は立てられない。
――一度流れた噂の拡散を止めることはもう出来ない。
だが、噂を書きかえることは出来る。
それが今回、私の下した結論だった。
そもそも小野が今回の噂が流れることを危惧していたのは〝久世真太郎と二人きりでデート〟というスキャンダルに嫉妬した他の女子生徒たちから、桃華が恨みを買うのではないか、と考えたためだ。
これについては私が「女の嫉妬は怖い」などと余計なことを言ったせいでもあるのだが……だが今朝の告白の一幕を見る限り、あながち
とはいえ既に流れ始めている噂を止めることは出来ない。
だったら、その噂を塗りかえてしまえばいいのである。
具体的には〝よりスキャンダラスな内容の噂を新たに流す〟、あるいは〝より信憑性・拡散性の強い内容を流す〟などの手法を使うのである。
今回の件はそもそも〝又聞き〟から流れた噂。
久世本人が〝クリスマスに女子と二人で出掛けた〟という部分を肯定してしまったせいで事実として捉えられているものの、付随する情報は曖昧で5W1Hの大半は空白のままだ。
つまり具体的な相手や状況、
無論、ただ流すだけでは先行する噂に追い付くことは出来ない。
だが教室のど真ん中でこれだけ大騒ぎをしたのだから、既に二組の生徒たちはこの新事実をを認知したはずだ。
〝久世
当然ながらリスクはある。
デートの相手が桃華だということを明言してしまったし、話題性からしても〝デート相手は二組の桐山桃華〟という部分の方が広まりやすいのは間違いないからだ。
だがこれだけ具体的な話を出しておけば、少なくともあらぬ誤解を受ける可能性は格段に減る。〝久世と桃華が付き合っている〟〝クリスマスデートの後はホテルへ行った〟といったとんでもない
まだあまり広まっていない噂であったことを踏まえても、十分なリターンはあるはずだ。
本来であればわざわざこのような真似をせずとも、久世が詳しく事情説明をすれば済む話なのだろうが……そこは彼も桃華と同じお人好し。恐らく「小野くんを巻き込むわけには……」などと考えすぎてしまったのだろう。
これだから、真面目な人間は損をするというのだ。
「(……ともあれ、これで小野の悩みの一つは潰せたかな……)」
未だにシズカに絡まれている桃華を眺めつつ、私は考える。
……心根から正直なことを言えば、私は未だに久世と桃華のことを応援しきれない部分がある。
それは久世本人が誰とも付き合う気がないからという意味でもあり。
桃華に高校生活を棒に振ってほしくないという意味でもあり。
そしてなにより――小野の桃華に対する想いを応援してやりたいと思う自分が、確かに心の中に居るからだ。
外野の私が口を挟むようなことでは断じてないが、それでも彼の真剣な恋心を〝もったいない〟と感じてしまったからだ。
けれど、他ならぬ小野自身がそれを望まないというのなら。
だったらせめて、
桃華が久世と結ばれるにせよそうでないにせよ、彼女の恋がなんらかの終結を迎えない限り、あの馬鹿はずっと桃華を応援し続けるだろう。
自分の青春など
異常だ。
まるで理解が及ばない。特に、私のような人間には。
小野の協力者だという
「(……本当に馬鹿だな……
自嘲するようにフッ、と笑みを浮かべる。
本当に、馬鹿げているとしか言いようがない。
一体いつから私は、こんな〝イイヤツ〟になってしまったんだろう。
――あんな馬鹿な男の力になってやりたいだなんて。
「ちょっとやよいちゃんっ!? 一人でにやにやしてないで助けてよっ!? というかこれ全部やよいちゃんのせいで――ッ!」
「覚悟しろや桃華ぁぁぁぁぁッ!?」
「ぎゃあああああぁぁぁぁぁっ!?」
「…………」
騒がしい友人たちを尻目に、私は教室の窓から綺麗に晴れた冬の空を見上げていた。
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