何だか父が、すみません 2

 再び、部屋の扉をノックする音がした。


 未汝がノックした誰かに向かって返事をすると、両親と、先程未沙姫と共にいた青年が入ってくる。


「お父さん」


 未汝に呼ばれた牧は、ニヤリと笑った。


「落ち着いたか?未汝?」


 悪ふざけもいいとこだ。色んなことを黙っていて、今日一日どれだけ今までの人生がひっくり返るようなことを聞かされたか分からない。


「落ち着いたか?じゃないわよ。何が会社員?実際は王様してたなんて、いきなり聞かされて信じられると思うわけ?」


 牧は一人掛けのソファに遠慮なく座ると、娘の八つ当たりをさらりと聞き流す。


「普通は無理だろうな。だが、この現実を見なきゃもっと無理だったろう?」


 ぐっと、未汝が口をつぐむ。それはそうだ。いつもの日常の中で、未来の王様してますなんて聞いても、信じるわけがない。


「じゃあ、学校の書類に書いてある勤め先は?」


「ああ、友人の景介けいすけが起業したから、顧問にしてもらった。未汝は、景介より斗萌ともえの方が覚えがあるか」


「うん」


 幼馴染おさななじみ同士どうしで結婚した古田景介ふるたけいすけ堀江斗萌ほりえともえは、牧と3人揃って幼稚園から大学院まで一緒というくさえんだ。


 二人が結婚して起業し、牧が未来の王様なら先が分かって丁度いいと、牧を役員に就任させて給与も支給し、困った時には助けてね。という契約をしている。


 過去の世界で生活するには過去の現金が必要なので、実にありがたい話だった。


「あいつらも事情を知っている。幼馴染のよしみで、色々便宜べんぎはかってくれてるぞ。だから書類はうそはついていない」


 嘘はついていないかもしれないが、ちょっとそれはどうなんだろうと思ってしまう未汝だ。


「さてと、まぁこの件についての事情はそれぞれ聞いたと思うが、タイムリミットは1年だ。未汝、頑張れよ。りな、文花から伝わってると思うが、未汝のボディガード、頼んだぞ。任命書にんめいしょは後で適当に作って机に置いておく」


「王、何で兄さんじゃないんです?」


「一人で二人もボディガード出来ないだろう?」


「お言葉ですが、未沙姫は眠っていらっしゃるのでは?」


 寝ているならボディガードの必要はないだろう、そう言いたげなりなに、牧があからさまに溜息を吐いて見せた。


「目覚めたらどうするんだ?結局結果は同じなんだから、最初からそれぞれ任命しておいた方が慌てなくて済むだろう?りな、そんな冷ややかな目を俺に向けても、くつがえすつもりはないぞ?ちょっと修行だと思って一度やってみなさい。ついでに未汝は受験生だ。とりあえず高校に受かるように家庭教師してやってくれ。それならお前でも多少意識がれるんじゃないか?」


 暗に、未汝が女だと思わなきゃ慣れるだろう?と言っている。


 そのことに気が付いた架名が、何とも言えない顔で目を泳がせ、美里が目をぱちくりとさせ、華菜が「全く牧は」、と呆れた顔で夫を見た。


「お父さん、どういうこと?」


「最高の教師だぞ、未汝。りなは、文花と国で1、2を争う天才児だ。国家予算、こいつ一人で組んでしまうのだからな」


「国家予算!?」


 それは、物凄く賢い人なのではなかろうか。未汝がりなに驚きの目を向ける。


「ああそうそう、話してなかったと思うが、この架名とりな、美里、それから小雪と杏堵あんとは俺の戸籍外養子だ。兄弟仲良く過ごすんだぞ」


「何?その戸籍外養子って」


「簡単に言うと保護者、というところか。諸事情で両親がおらず、孤児院に預けるわけにはいかない状況なので俺が引き取った。まぁ、それぞれ天才的な才能があるから、ほぼ独立してしまっていて、俺が必要なのは何か契約する際に保護者欄にサインがいる時だけなんだが」


 それも、ほとんど出番がないときている。


「牧の戸籍に入れちゃうとね、苗字が変わっちゃうからおいえ存続そんぞく出来ないでしょ?特に美里ちゃんの西城家は、晋槻しんつき家とついになる家柄だし。それに、王族の戸籍に入れるのは、負担が大きくなりすぎるのよ」


 華菜が言うと、「ふ~ん、そういうものなのか?」と未汝の顔に書かれる。


「でも、この才能は手元に置いておきたい訳だ。だから俺の子供とした。王族にも数えられはするが、表立って色々やってもらうことのない立場という、絶妙なラインに立たせている」


 へ~え、絶妙なライン・・・・・・と納得しかけた未汝は、はたと気が付いた。


「それってつまり、その才能を使いたいが為に首輪をつけたようなものじゃないの?」


 娘の言葉に、牧がどこか胡散臭うさんくさい笑みを浮かべる。


「未汝、気が付いたことはめてやりたいが、言葉が良ろしくない」


 つまりは飼っているということだ。引き取ったのは人道的な理由かと思った未汝が、目を白黒させて百万語を飲み込む。


「何か、ウチの父がすみません」


 自分にとっては初対面の人達に、この言い様。穴があったら入りたい。


「いえ、私達も引き取って頂けて色々助かりましたから」


 架名が苦笑して言うと、美里もうんうんと頷いている。


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