養父さんは心配なんだ人事の真相 2

 現国王、鈴香牧すずかまき

 後に歴史の本には慈悲深い改革王と称されることになる国王であるが、華菜に出会わなければ、今頃は一般人として平凡に人生を送ったであろう人物である。


「文花から、事の次第は聞いたか?」


「いえ、詳細は後程と伺っています」


 それを聞いて、あいつ、未汝と美里とりなに説明するから架名にまで同じ説明は面倒だと俺に仕事投げたんじゃないだろうなと心の中で呟く。


 そういえば昔、「昔々あるところに」と『時空の法則の話』を子供達を寝かしつける時に華菜が話して聞かせていたのを思い出した。一から説明するのは面倒だ。


「そうか。ちなみに架名、妻の華菜に昔々あるところにって話を聞いた記憶があるか?」


「昔々あるところに?昔話ですか?桃太郎とか、浦島太郎とか、そういう?」


「いや、今回の件に関する話だと思うが」


 この件に関しての昔々から始まる話・・・・・・?と架名が腕組み考える。

 すると、脳裏に引っかかるものがあった。もしかして、あれか?


「昔々あるところに、可愛い可愛い女の子がいました。その女の子は開けてはいけないと言われていたとある扉を開き、過去に落ちてしまったのです。そこで出会ったのは、何とも夢のない、現実主義で頑固で無駄に頭だけはいい青年でした。って話は聞いた記憶が・・・・・確か、時空の法則とか言う法則があって、二人の子供を未来と過去に置いて様子見するとか何とか・・・・・・・そう言えば結末がなかったな、あの話」


 牧は黙って架名が思い出す話を聞くと、眉根を寄せた。


 そこで出会ったのは、何とも夢のない、現実主義で頑固で無駄に頭だけはいい青年って、もしかしなくても俺のことか。


「時空の法則の話を聞いているなら話は早いな。それが現在の状況だ。俺が過去の人間であることは架名、知ってるよな?」


「はい、一応」


 情報としては知っている。普段の牧を見ていても、全くそんな風には見えないのだが。


「双子は別々に育てると同一のものを見失い同一の意識を持つと言われている。未沙と未汝はその為、時空の法則上同一人物と認識されてしまう状態だ。だから未沙は意識を失ってこの時代に存在していないかのように振る舞うことになった」


「成程、眠ってしまえば意識はないから同一人物も存在しない、ということですね。でも、どちらをどちらの時代の人間とするかなんて、勝手に決めてしまっていいものなんですか?」


「いいところに気が付くな。その通り。だからこの試練が用意されている。華菜は正式には王女と呼ばれたのに未沙は姫だ。一人前でないから王女と呼べない理由もそこにある」


「不安定な存在を王女として認定するわけにいかないわけですね?国としては。それで?その試練はどんなものなんです?」


「話が早くて助かる。未汝が成人するまでに、この未来に自力でこられたら、両者に王女となる資格を持たせる。そしてその日から一年以内に同一の見失ったものを見つけられれば両者を王女とし、自分達でどちらが未来に残るかを決めることができる」


「メリットばかりではないんでしょう?試練、というからには」


「ああ。一年以内に見つけられなかった場合は、未汝はこの世界から人々の思い出ごと消滅し、過去の人間となる。逆に、見つけていないのに未沙を起こした場合は、未沙に関する思い出は全て消滅し、未沙が過去の人間になる」


 架名の目が鋭く細められたが、牧は気付かない振りをした。


「それは随分厳しい罰ですね。ちなみに、王達の記憶も?」


「それは何とも。俺が過去の人間だから、俺には記憶が残るのではとも言われている。が、実際は分からない。未沙が既にこの同一の見失ったものを見つけているから、これが少しは有利に働くのではと期待しているが、予測通り眠ってしまったからな。今の状況を見る限りどうなるかは分からない」


「じゃあ、でも未汝姫には見つけて頂かなくてはならないわけですね」


 架名が何とはなしに言うと、牧が目を瞬く。


「それはまぁその方が嬉しいが、架名には未汝に思い入れなどないだろう?」


「ありませんが、初見で妹だと見抜いた未沙姫が悲しみそうですからね。何も手伝わなかったとなれば責められそうですから。兄弟欲しそうでしたし、一緒に過ごせるとなれば喜ばれるのでは?」


「未沙が、か?」


「ええ。ちなみに今からもう一人作るつもり・・・・・・・?」


「ない」


 それはそうか、この時空の法則で縛るなら、普通に考えて子供は偶数でなくてはならない。


「未沙姫が見つけてるってことは、答え分かってるわけですよね?」


「予測はついている、という状態だ。未沙もこんなようなこと考えた、くらいにしか分かっていないようだし」


「ちなみに、ヒントは?」


「ヒントか?さっきの言葉の中にあるぞ。この法則の主旨だ」


 法則の主旨?と架名が頭の中で思い起こす。


 ―――同じ人物は存在しないってことだったよな。


「別の人物になればいいわけか。で、未沙姫は答えに辿り着いた。あれ?分かったんなら別の意識があるんじゃ?」


「ない、と法則に判断されたから未沙は眠ったんだろう?」


 言われてみればそうだ。でなければ未沙は眠ったりしなくて済んだはずだ。


「そっか。長期戦になりそうだな、りなが予測して見つけてくれたりしないかな」


「何でそんなに他力本願なんだ架名。手伝うんじゃなかったのか?」


「賢い頭脳がそこにあったら頼りたくなるでしょう?」


 正論だ。牧も何度もそう思ってりなを使ったことがあるから架名を非難は出来ない。


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