試練は彼にも与えられる 2
未汝を警備兵に引渡し、台に置いた問題集を手にした時、りなの背後から女性の明るいあっけらかんとした声が響いた。
「あら、一体何の騒ぎ?」
りなは振り向き、慌てて未汝からその女を遠ざけようとする。
「王妃、近付いてはなりません!曲者だそうですので・・・・・」
王妃と呼ばれたその女はりなの言葉を無視し、両手を背に回された未汝の傍にしゃがみこむ。まるで小動物を見つけた少女のような行動だ。
「王妃!!」
慌てたりなが、王妃に危害を加えられては困ると守るように手を伸ばすと、王妃と呼ばれたその女がりなを見上げた。
「ね、りなちゃん。この子が曲者なの?」
思わぬ問いに、りなの眉間に皺が寄る。この状況で何を聞くのかこの人は、と思ったようだった。
「という話ですが?」
ふ~んと納得したんだかどうだか分からない返事をしてから、さらにじーっと未汝を見つめる。
「王妃?」
りなと警備兵は、王妃の理解不能な行動に戸惑いながら、次にどのような行動に出るのかを見守っている。危険がないように注意しているのだろうが、未汝にとってはじーっと見られているのは少々居心地が悪い。しかも、母にそっくりな顔だ。
「あの・・・・・」
未汝がまさかと思いながら問いかけた瞬間、王妃はニコッと無邪気に笑った。
「曲物っていうからどんな物かと思えば、普通の人間じゃない!期待して損しちゃった」
立ち上がってニコニコと笑いながら発せられたその言葉に、一同は耳を疑う。
「あら、どうしたの?皆固まって・・・・」
王妃のあっけらかんとした様子を見て、りなは恐る恐るといった
「王妃、曲者を何だと思っていらしたのですか?」
「ん?曲物っていうくらいだから、どんな曲がった物かなぁ?と思ったの。でも、普通の人間だし、つまらないわ。あ、もしかして性格とか?」
つまらない、とかいう問題なのだろうか、全く意味不明、理解不能なんですがと、りながこめかみを押さえる。
「王妃・・・・・。丁度ここに国語の問題集がありますので、もう少しお勉強なさって・・・・・」
外でこんな訳の分からない会話をされては、色々問題だ。
「りなちゃん、お
なかなか言うわねって、言いたくもなるだろうと常識人が思っている中、りなは咳払いをして、とりあえず、と警備兵に向き直った。
「牢へ連れて行って下さい。いつまでもこうしているわけにはいかないでしょう」
りなが警備兵に指示を出すと、兵は未汝を連行しようと動き出す。
「あら、その子を牢に閉じ込めておくつもり?りなちゃん?」
引っ立てようと未汝を立たせるのを見ていたりなは、眉間の皺を増やした。
「王妃、いい加減にりなちゃんはやめてください。僕は男なんですから・・・・・」
りなの抗議に、王妃はニッコリ笑って「りなちゃん」と改めることはない意思を示し、やめるつもりはないことをアピールした。
「とりあえずね、その子を牢に閉じ込められちゃ困るのよ。りなちゃんだって牢屋は嫌でしょ?」
「そりゃあ嫌ですけど・・・・・って、僕のことはいいんです。王妃、今、牢に入れられては困ると仰いましたか?」
「聞こえてるんじゃない」
「どういうことですか?曲者を牢に入れては困るとは・・・・・まさか、まだ曲者を曲がった物などと思ってらっしゃるなんてことはないですよね?」
りなが疑うように王妃を見る。その視線を受けて、王妃は口を尖らせた。
「思ってないわよ。でも、困るものは困るのよね?未汝?」
曲者の名を呼んだ。りなも警備兵も状況が分からず驚きに目を瞠る。
「お知り合いですか?」
りなの問いに、王妃はあら?と不思議そうな顔をした。
「お知り合い?やーね、忘れちゃったのりなちゃん?この子は鈴香未汝、私の子供よ?若いのにもうボケちゃったの?夜遅くまでお勉強してるから」
「いえ、ボケてなどいませんし、勉強のし過ぎということもありませんが・・・・・・あの、無礼を承知でつかぬ事を伺いますが、この方は、その、王妃の隠し子、なのですか?」
王妃に隠し子なんてスキャンダルだ。しかも、未沙の他に実子がいるだなんて聞いた記憶がない。りなが恐る恐る聞くと、王妃はくすくすと笑い始めた。
「やーねりなちゃん、王の妻に隠し子なんているわけないじゃない。未汝は未沙の双子の妹なのよ?昔話したでしょ?牧は元々は過去の人だったって」
「待って下さい!!あれ、作り話だったんじゃないんですか!?」
まだここに引き取られた頃の話だ。寝物語に聞かされた話である。
確か、昔々あるところに・・・・・とかって始まった気がすると、りなは記憶を辿った。
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