試練は彼にも与えられる 3

「昔々あるところに、可愛い可愛い女の子がいました。その女の子は開けてはいけないと言われていたとある扉を開き、過去に落ちてしまったのです。そこで出会ったのは、何とも夢のない、現実主義で頑固で無駄に頭だけはいい青年でした。って話したでしょ?」


「・・・・・・」


 昔々って、百年とか二百年とか、何百年前とかの話じゃないんだ、やけに昔話ちっくな始まりだけど・・・・・と、一同は思う。


 しかもその話から察するに、可愛い可愛い女の子は王妃自身で、何とも夢のない、現実主義で頑固で無駄に頭だけはいい青年は国王のことか。王がその話を聞いたらどう思うのだろうとうっかり思うりな達である。


「それにしても未汝?曲者と間違えられるなんて、何か怪しい行動でもしたの?」


 捕まえられていたその手を開放され自由の身になった未汝は、母そっくりな顔をじっと見ながら恐る恐る口を開く。


「お母さん、なの?」


 王妃は、くすりと笑った。


「じっと見てあげても気が付かないんだもの。お母さんの顔忘れちゃったのかと思ったわ」


 確かにこの顔は母にそっくりで、先程の会話から分かるように馬鹿だろうと言いたくなるような発想というか何と言うかは、母そのものであるような気がした。肩に届くくらいのウェーブのかかった薄茶色の髪は綺麗に手入れされて、横髪は後ろで留めてある。まだまだ若そうな顔は人懐っこそうな笑みを浮かべていた。


 未汝の不安そうな顔に、華菜は微笑む。


「なぁに?その疑うような顔は。そんなに信じられない?」


「私、現実主義者だもん」


「牧と同じようなことを・・・・・これもとりあえず現実なのよ?」


 そう言われてしまうと、確かにそうなのである。たとえ頬をつねってみても覚めないことは、先程文花の前でやってみて実証済みだ。


「・・・・・嘘つき」


「何が?」


「いつだったか何の仕事をしてるのか聞いた時、お父さん嘘ついた!!」


「しょうがないじゃない、どうせ本当のことを言ったところで信じなかったでしょ?それに、学校に提出する書類に、2335年の王様ですなんて書ける?そんな事書いたら精神病院行きよ?」


 それはそうだろう。この母が珍しくまともなこと言ってると未汝が思っていると、王へ報告に出向いていた晋槻文花が戻ってきた。どうやら騒ぎを聞きつけてやってきたらしい。


「何事です?」


「あ、ふみ~!!」


「王妃、こんなところにいらしたのですか?王が話があるから王室に来るようにと仰ってましたよ?」


「は~い。じゃあね、未汝」


「え?あ、ちょっと、お母さん!!」


 ひらひらと軽く手を振って、王妃 鈴香華菜すずかかなは王室へ向かった。


 それを見送って、文花は警備兵の傍に立っている一人の少女に気がつく。


「未汝姫!私、部屋から出ないで下さいと申したはずですが!?勝手にお出かけになるからこうなるのですよ!!」


「ご、ごめんなさい」


 全く。と文花が息をついたのを見て、りなが早々にこの場を離れようと足を引いた。


「文花様、それでは僕はこれで・・・・・・」


 失礼します。ときびすを返して立ち去ろうとするりなに、文花が待ったをかける。


「りな」


「・・・・・・はい」


 嫌な予感がする。呼ばれて仕方なく足を止めると、文花の口から思いもよらぬ伝言(世の中でそれは命令と言われる)が飛び出した。


「王からの伝言です。今日から未汝姫のボディガードに任命する、と。今まで以上にハードなスケジュールになりますが、体を壊さないようにとのことです」


 りなの表情が一瞬引き攣った。傍に居る警備兵達も、顔を見合わせる。


「文花様、それは・・・・・・・」


「分からないことは架名に聞けと。ちなみに、拒否は許さない。養父とうさんは心配なんだとの伝言も預かっています」


 りなの眉間に、深い皺が刻まれる。


「・・・・・・・一体、何の心配ですか」


 冷ややかな声音に、王の思惑おもわくも、りなの心情も理解している文花が、板挟みで困ったような顔をした。


「りな、これも修行と思って職務に励みなさい」


 当たり障りなく神官らしく諭す言葉を口にすると、りなが不服ながらも口をつぐんだ。


 警備兵達にここはもう大丈夫だからと持ち場に戻らせると、文花はりなに優しい目を向ける。


「とりあえず、未沙姫の向かいの部屋を未汝姫の自室にするとのことです。ご案内を。私は美里を探してきますので」


 りなは一瞬沈黙し、「畏まりました」と表情を失くして了承した。



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