第4話
「誰にも見られないように?」
「そうです。警察や教師だけじゃなくて、生徒にも通行人にも、誰にも気づかれないように外で全裸になるんです」
「それじゃ、物語にならないわ。だって、トラブルが起きないじゃないの。誰にも気づかれないんだから」
「いやいや、それは気づかれなければでしょ。教室の中とか、駅とかで、誰にも気づかれずに全裸になるのって普通にむりじゃないですか」
「確かに」
「そこをどうやって誰にも気づかれずに全裸になるのか。そのミッションをクリアするための方法や、シチュエーション、何かしらのアクシデント、もしくは気づかれるかもしれないというスリリングさを描くんですよ」
「何それ! おもしろそ!」
「でも、なぜか主人公だけは気づいちゃうんですよ」
「おぉ! エロいね! さすが俊介!」
誉め言葉として受け取っておこう。
「そのとき、どっちが恥ずかしがるんだろうね。私の考えた長谷川さんは、むしろそれでも堂々としていて、主人公の方が照れて赤くなっちゃうかんじだけど」
確かに、資料の中のは長谷川さんならば、僕もそんな印象だ。
「でも、誰にも見られないように全裸になるってことは、少なくとも見られるのが恥ずかしいってことだから、長谷川さんが恥ずかしがるのかな。すごい、ドヤって顔で全裸になってから、主人公の視線に気づいて、バッて顔を真っ赤にして。わぁ、かわいいぉ」
自分の身体を抱きしめて
静は、あまりピンときていないような顔をしていが、鳴子部長の楽しそうな顔を見て、呆れたように苦笑いした。
「まぁ、最初の設定よりは無理がないと思います。ただ、部長、わかってますか? その設定だと、衆人環視の中でどうやって全裸になるかを考えないといけないんですよ」
「ん? あ、そっか」
鳴子部長は、この設定で物語を書くことの難しさに気づいたようだ。いや、設定事態は簡単なのだ。いろんな場所で長谷川さんが全裸になる。その有り様を書けばいい。
しかし、おもしろく書くのはなかなか難しい。
まず、どうやって全裸になるの部分におもしろさと意外性がなければならない。絶対に可能な方法であろうと、平凡であってはつまらないし、いくらおもしろい方法でも、非現実的過ぎれば、冷めてしまう。
トリックだけでも考えるのは難しいのに、それにリアリティとおもしろさを加えてバランスさせなければならないのだから、悩ましい。
「授業中は、なんとかなりそうかな。いちばん後ろの席で、先生が黒板に向いているときに、全裸になるとか」
「突然振り返ったら、と思うとドキドキしますね」
「そう。でも、振り返ったときには、服を着て座っているの。エロいだるまさんが転んだね」
「けっこう
「ふふ、実はね。制服を前に掛けているだけなの。後ろから見たら全裸よ」
「一夜城ですね」
「最終的に机の上でイナバウアーを決めるわ」
「芸術点が高そうですね」
僕の合いの手に
「映画館で全裸になるっていうのも、地味におもしろそうよね」
「あぁ、わかります。難易度は低いけど、低いだけにありえそうで想像しやすいですし」
「私、実際に、やったらどうなるだろう、って想像したことあるわ」
「本当にやってないでしょうね?」
「エロ俊介。妄想するんじゃないの」
別に考えてなんかいないやい。
さて、そこまで順調に案を出してきた鳴子部長であったが、うーんと唸る。
「やっぱり難易度の高いところも攻めたいけれど、駅とかだと、どうすればいいのかわからないわ」
「駅ですか。意外とできそうですけどね。ほら、駅のホームを挟んで電車が来るところだと、ホームの中央の部分が死角になりそうじゃないですか」
「あ、確かに。でも、それだけじゃなぁ」
「まぁ、そうですね。もう少しひねりたいところではあります」
「こういうのはどうかな。そのホームのある時刻では、上りと下りが同時に来るの。だから、ちょうど視線がホームの両サイドに向く」
「うーん、それだけだとあんまり違わない気が」
「まだよ。そのホームの構造的に、両サイドから同時に電車が来るとつむじ風が発生して、ちょうど女子高生のスカートを巻き上げるのよ!」
「おぉ!」
「男共の視線は、すべて女子高生に注がれる。その一瞬を狙って、脱衣とポーズと着衣を済ませるの」
「なるほど。エロを隠すならエロの中というわけですね」
「そのフレーズいいわね。どこかで使わせてもらうわ」
「ありがとうございます」
全裸のネタ出しは難しいと思われたが、部長と案出ししたところ、意外とできそうである。まぁ、あんまり賢そうな会話ではないが。静などは呆れた顔をしている。
「よくそんなくだらないことをぽんぽんと思いつきますね」
「精査していないからね。とりあえず口に出してみて、出てきたモノの中から使えそうなものを拾うってのが、部長のやり方だから。まぁ、ほとんどゴミだけど」
ゴミとは何だと怒る部長をよそに、静は、少しだけ納得した顔を見せた。
さて、意外と実のある議論ができたのではないだろうか。僕はそんな充実感を得ていたのだけれど、そういえば、ともう一人の部員に視線を向ける。
「
一年生の彼女は、美人であるものの、それを隠すように前髪を垂らし、一種のホラーのような外見を演出している。
見た目の陰キャラ感とは裏腹にコメディをこよなく愛しており、特に不条理系、シュール系のコメディを好む。正直、その分野の笑いはわからないので共感しづらい。
陽は、うーんと少し唸ってから呟いた。
「長谷川さんは、タンポン派?」
「「「……!?」」」
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