第236話 ゾルゲの宿にて

俺達が宿のレストランで食事をしていると、ヴァンパイアワイズマンのヨシゾーが、チェックインを終えレストランにやって来た。


「チェックインをして来ました」

空いた席に腰を降ろすヨシゾー。


「ヨシゾー、ご苦労様。済まんが先に食べてたよ」


「いえいえ、お構いなく」


「この肉が美味しいよー」

ハーピーのハルカが、フォークに肉を刺して、モグモグしている。


シェフのお任せのコース料理を頼んでいたので、ヨシゾーの席には幾つか皿が並んでいた。


ヨシゾーは給仕のブラウニーを呼んで、赤ワインを頼んでいた。


魔王国の宿のレストランは、多種多様な種族が客になるだけあって、ドラゴンのドラムや魔神パズズのバズ、鵺のライヤ、空狐のクーコ達の見た目がモンスターであっても、問題なく一緒に食事が出来る。


周りで食事をしている者達も、オーガやミノタウロス、ダークエルフなど様々だ


食事を終えて部屋に向かったら、1番上の階である5階を全て使ったスペシャルルームだった。


部屋も10以上あり超豪華だった。


「こんなに贅沢な部屋に泊まって良いのかね?」

俺の貧乏性が顔を出す。


「良いのですよ。真祖ヴァラカ様もいつも最上級の部屋に泊まっていました。ショータ様はヴァラカ様の主ですので、最上級の部屋以外はあり得ません」


「そうじゃのぅ。ショータ様は最上級の部屋に泊まるのは当然じゃ」


「そうかねぇ」


寝るのは畳一畳たたみいちじょうあれば十分なんだけどね。


少しリビングでゆっくりしていると。


ドンドンドン!!!


扉を強く乱暴に叩く音がした。


「何だろう?」


「煩いのぅ。ちょっと見てくるのじゃ」


エルフのエリがソファーから立ち上がると、扉に歩いて行く。


ドンドンドンドンドンドンドンドン!


その間も扉を叩く音が続く。


エリが扉を開ける。

「何じゃ!煩いのじゃ!」


立っていたのはラミア。

どうやら下半身の蛇の尻尾で扉を叩いていたらしい。


「妾の主がこの部屋を所望だわ。直ぐに出て行きなさい」


エリを睨むラミア。


「お金を払って泊まってるんじゃがな」


「はぁ?そんなの知った事じゃ無いのよぉ!今直ぐ出て行かないなら、皆殺しよぉ!出て行くのを待ってあげるだけ、慈悲深いと思いなさいぃ!」


「断るのじゃ」


「おほほ、馬鹿者ねぇ!死になさいぃ!」


ラミアの蛇の尻尾がエリを打つ。


エリは左手でラミアの尻尾を受け止めた。


「はぁ、煩わしいのじゃ」


ズシャッ!!


エリが袈裟斬りの軌道で右腕を振ると、魔神パズズの風刃がラミアを一瞬で斬り裂いた。


3本の爪が斬り裂いた様に、ラミアに3本の線が斜めに入り、ラミアは、信じられない顔で目を見開きながら、首と上半身と下半身が分かれて崩れる。


エリは扉を閉めて戻って来た。

「馬鹿だったのじゃ」


「本当にねー。バカヤローだねー」

ハーピーのハルカも同意している。


「まさか、魔王国ってこれが普通?」

俺はヨシゾーに聞いた。


「普通にある事ですね」

ヨシゾーは「当然」と言った顔で平然と答える。


「マジか!面倒くせぇ!」


「ドラムでも、扉の前に置いておくかのぅ」

エリが解決策を提示する。


「そうだね。ドラゴンだから大抵の敵は問題ないだろう。な!ドラム」


「うむ。儂がいれば誰も通さん」


「また、偉そうにぃー」

ハルカが横目でドラムを見ていた。

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