抽出

深川夏眠

抽出

「花粉、埃、排気ガス。我々が否応なしに吸っては吐く、それらに異質なものが混ざっていたら……?」

 てな話を部活の終わりに小熊くんと交わしながら家路に就いた。宇宙からの侵略者は仰々しい円盤で降下してくるより、微小な物質として訪れる方が現実味がある、というのが一致した意見だった。ジョン・ウィンダム「呪われた村」式、女性を妊娠させて新生児として世に出て行動を起こすパターン、ブラッドベリ「ぼくの地下室へおいで」式、キノコを人間が食べて肉体を乗っ取られるパターン——。

「他には?」

「初期形態はわかんないけど、地上に着いて出会った人に擬態する」

「本体はどうするよ。抹殺して入れ替わるってこと?」

 などと語らっていると、路地ろじぐちに放り出された鞄が目に入った。けったいな編みぐるみマスコットは彼女のお手製だと自慢している矢木くんではないか?

 果たせるかな、ひしめき合う小さな飲食店のポリバケツの狭間でが展開されていた。もう上半身が食いちぎられ、消化されている模様。振り返った捕食者の顔はまさに眼鏡を掛けた矢木くんそのもの。本人が突如カニバリズムに目覚めて誰かを喰らっていた可能性も否めないが……。


 翌日、矢木くんは何食わぬ顔で登校したが、すぐにボロを出した。体育の前、更衣室で着替えられずにモジモジしている。細部データを抽出・インストールしそこなって、ボタンもファスナーもない制服に身を包んでしまったのだ。もっとも、レムの「ソラリス」は侵略SFではないけれども。



                 【了】



◆ 初出:パブー(2018年4月)退会済


*縦書き版は

 Romancer『掌編 -Short Short Stories-』にて無料でお読みいただけます。

 https://romancer.voyager.co.jp/?p=116877&post_type=rmcposts

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抽出 深川夏眠 @fukagawanatsumi

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