第1印 依頼
ササッ…
私達は今、奇妙な姿の妖怪と交戦中だった。顔は海老なのだが、体は百足のように細く気味の悪い妖怪だ。この妖怪の名は「網切(あみきり)」。この妖怪こそ、依頼された件の犯人だった。
ー数時間前ー
「すみません、依頼をお願いしたいのですが…」
「はい!何でしょうか?」
「最近…私達の住宅地周辺の網が毎朝切られているんです。ハサミのようなもので切り裂かれたような後が毎朝ちらほらと…」
「なるほど…網ということは蚊帳などの物ですかね…?」
「はい、家の蚊帳もパックリ切られてしまって…周辺の住民も「次は人がやられるんじゃないか」と恐怖していて…」
「分かりました。では今夜そちらの住宅地へ向かいます。危険な妖怪ということもあり得ますので、住民の避難をよろしくお願いします。」
「ありがとうございます。分かりました…」
そんなこんなで夜見張っていたところにノコノコと現れ出たのがこの網切ということ…海老のような妖怪だけあって逃げ足は相当速い。あっという間に森の奥深くまで来てしまった…
「待ちなさい!妖怪網切!これ以上逃げても無駄よ!」
「そうだな……仕方ねェなァ…ここはやるしかねェみてェだなァ。」
しかもこんな出で立ちでもよく喋る。ここまで気味の悪い妖怪は今までに見たことがない。
「来るよ…玲子ちゃん!」
『分かってるわ。』
フッ……
「大人しく死んでくれよォ!!」
ガキィン!!
「なッ…!?」
「残念だけど、私も死ねない立場…簡単に死ぬわけにはいかないわ。」
さっきので美子の人格は消え、今表に出ているのは私…凛条玲子としての人格が出ている。後の戦闘は私の役目だ。
「お前…性格変わったのかァ…?」
「そうね…性格はおろか、「人格が入れ替わった」と言ってくれた方が正しいわね。」
「そ、それがなんだッてんだ…俺のハサミは固い網でも切り裂くッ!人間なんて真っ二つだぜェーーー!!」
全く…嫌な見た目に対してよく喋る…
「俺のハサミを食らえェーーー!!」
上から奇襲を仕掛けてくる網切に私は居合いの構えを取る。
スッ……
「蝶月輪…」
カチャッ…!!
「一刃!!」
ガキィンッ!!!
「うおッ……危ねェ危ねェ…固い甲殻のおかげで助かッ…」
まだだ。さっきの一撃はほんの小手調べ。主な攻撃は次の一撃…!!
チャキッ…
「二刃!!」
刀を逆手に持ち替えて、甲殻のない柔らかい腹の下を斬り上げる。
ブシュッ!!
「ぐぬッ…!?」
今ので致命的な一撃にはなったはず…だが腹を斬り裂かれようとも生命力はまだあるみたいだ…
「もう俺は怒ったぜェ…お前をこのハサミで切り裂くまでェ…俺は止まらねェ!!」
別に怒ろうが私には関係のないことなのだが…
「ォォォォォォォッ!!!」
「蝶月輪…」
スッ……
「月花閃。」
カチャン。
「あっ……あ……」
向かってくる網切の後方に素早く斬り抜き、最後の一撃を与えた。ようやくこのやかましい妖怪を倒すことが出来た…
「ふぅ…お疲れさま、玲子ちゃん。」
玲子ちゃんの人格が戻り、美子としての人格である私が表に出た。
「これで依頼達成だね。」
『えぇ。依頼人に報告しに行きましょう。』
深い森の中を掻き分けて、私達は街を目指した。
第1印、完。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます