俺たちのイマドキJK

『瓶回し』


 会長は確かにそう言った。皆、クエスチョンマークを掲げたまま会長に注目する。


「突然すまない。夏村の罰ゲームをしようと思ってな」

「バツげぇむ? 夏葵まだなぁ……なんが会長さ、まぃごとしたべ」


 会長の発言を受けて俺をからかってきたのは、俺の右隣にいる女の子。夏野一夏なつのいちか。サラサラした長い黒髪で、髪の上の方はお団子の形にしていてる。そして、髪の右側と左側にはひとつずつヘアピンがされている。右側には夏の匂いが今にもしてきそうなまでに鮮やかな黄色を基調とした向日葵のヘアピン。左側には……なんだろうか。花のようではあるが見たことのない花だ。とにかく、その二つのヘアピンが彼女の天真爛漫さとイマドキJK感を印象付けている。


「……いや、ちょっとな……」

「なに、どしたんず?教えてけろー」


 とグイグイ肩を寄せてくる一夏。やめろー!なんかいい香りするから甘夏みたいな!フルーティーな匂いが鼻腔をくすぐるわ。距離感近いんだよ。なんでこうリア充はパーソナルスペースにズカズカと入ってこれるのだ!

 ニーソックスとスカートから垣間見える絶対領域。色白で健康的な太ももがいろいろとギャップがあってたまらない。が、それよりもこいつはあれだ。制服の上からでもわかるその2つのたわわ。凶器なんだよぉ!俺は巨乳好きというわけではないがキツイもんはキツイ……色々と。


「んだがんだが。そうなんずが。わぁさだば教えでけねぇんだ!幼馴染だど思ってだのわぁだけなんだ!」


 そう、俺とこいつは幼馴染だ。先程からお気づきかもしれないが、俺たちの生まれは津軽。育ちも津軽。田舎の中の田舎だと思うが唯一の救いと言えば、俺たちの住んでる村から交通機関などをちょいと使えばこうやって市街に出たり、学校に行けたりと津軽の中でも発展している方だということくらいだろう。


「んだ。そっだこどよりもさ、このヘアピンどんだ? 似合うべ?」


 そう言ってその場でくるっと一回転して、頭につけたヘアピンを見せびらかすように、その手入れが行き届いているであろう綺麗な黒髪を近づけてくる幼馴染。やめて!そんなにスカートはためかせながら近づいてこないで!髪もいい匂いしてるし!


「ん? あぁ……その似合ってると思うぞ。その向日葵ともうひとつはわかんないけど……」


 女の子を褒めるのはめちゃくちゃ勇気がいるし、何より疲れる。


「んだが!? わぁめごい? たんげ嬉しい!もうひとっつのことだば今度教えでけらね!」

「お……おう」


 イマドキJKさんが興奮なさってる。俺がアロマセラピーを覚えていたら使ってあげたいくらいだ。


 まぁ、そんなことよりはっきりさせておかねばならないことがある。ここまで来て何を今更と言われるかもしれないが明言させてくれ……そう彼女は━━


『津軽弁イマドキJK』なのだ!


 津軽弁と言っても歳をとったおじいちゃん、おばあちゃんが使うような難しい津軽弁を使うわけではない。この辺の高校生にでも分かる程度の津軽弁で話してくれるので有難い。標準語と津軽弁がごちゃ混ぜなのだ。(標準語と言っても津軽訛りがひどい)


 先程一夏が言っていたのは、「そう!?私可愛い?すごい嬉しい!もうひとつのことなら今度教えてあげる!」と、大体このような訳になる。ここら辺の人は普通の単語とかでも濁点が付くという特徴もあったりして我ながら面白いなと思っていたりする。


 ※ここからは、津軽弁訳を「(注︰)」の表記にする。


「てがさ、どしてよ夏葵最近津軽弁あんま使んなぐなったんず? どしたんず? まさが恋!? だいのことば好きなんず!? 教えてけろー!(注︰てかさ、どうして夏葵最近津軽弁あまり使わなくなったの?どうしたの? まさか恋!?誰のこと好きなの? 教えてちょーだい!)」


 おい!それ以上近づかないでくれ!当たってるぅぅぅう!何がとは言わないが育ち盛りのその双丘が!


「馬鹿馬鹿しいわね……」


 すたすたというどこか無機質な音が耳に入ったと思った瞬間、背中に柔らかいけれど重い、そんな衝撃が走った。

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