瓶回しから始まる俺と黒髪ロングたちのラブコメ
美海未海
夏の音が聞こえた
始まりは梅雨の音が止む前
「おまえら、瓶回しって知っているか?」
この言葉から全てが始まったのだが、その突拍子もない言葉を彼女が発する前に時刻は少し遡る。
―――
「
俺、
そんな彼女は、俺たちが所属している生徒会執行部の会長を務めている人だ。これだけ聞くと、クールな、どこか冷めた人だと思うかもしれないが、その眼には揺るがぬ炎とでも言えばいいだろうか……決意、覚悟のようなものが見て取れる。
彼女はアツい。どこまでもアツくて俺なんかじゃ到底及びもしない。眩しくて、でもそのあとを追ってしまいたくなる、光のような人なんだ。
「どうした?私の顔に何か付いているのか?聴いていたか?話を戻したいのだが……」
どうやら会長のことをまじまじと見ていたらしい。
「いえ。戻してください」
「そうか。これは何だ?」
仕切り直しと言わんばかりに会長は話の種を俺に見せる。これは……俺のだと一目でわかった。だって見せられたものは、
━━ギャルゲーのパッケージ。
「あなたの"光"は何ですか?」
「ぐはっ」
きめ細やかな新雪のように柔らかそうな唇から俺の耳に届いた言葉は、俺の好きなギャルゲーのキャチコピーであり、そのギャルゲーの挿入歌の一節で、俺の中に深く刻み込まれている言葉だった。
「すまんな。裏面を見たらそう書いてあったから言ってみただけだ。他意はない」
「そうですか……」
どうしても会長の瞳を見続けることはためらわれる。一度捉えられたら二度と戻って来れないような気がするから。
「それで、これはおまえのか?」
「はい」
「そうか」
会話が終了。あれ?俺たちこんなコミュ障だったっけ?頷いたっきり、会長は右手を顎にやり目を閉じて深く考え込んている。
「うん」
そう言って開かれた会長の碧き瞳に目を合わせないように視線を外す。
「とりあえずこれを返す」
「え?」
なにを決めたのか会長はギャルゲーのパッケージを俺に返してきた。この人の行動は予測不可能だと改めて思った。
「それと、たぶん生徒会業務の後におまえらはいつものように駄弁るんだろう?」
「そうですね……たぶん」
「そこで罰ゲームをする。おまえの」
「は?」
許してくださったのかと思っていたらどうやら違うらしい。口角を少し上げている様はなにかを企んでいるかのように見えるのだがその仕草も妙に色っぽい。
「その時に私が言うことにおまえは一切口出しするな。ただ首肯しろ。わかったか?」
はいそうですかとすぐに頷けるわけがない。会長は一体何を考えているのだろう。
「あの……」
「わかったか?」
「はい……」
ダメだった。レベル1の俺じゃレベル99の魔王になんてかないっこなかった。
「それじゃ、少し私は席を外す」
彼女の背を見届けて生徒会室に残ったものは、じめっとした雨の音だけだった。
―――
「おまえら、瓶回しって知っているか?」
そして、数時間前の話から現在に至るというわけだ。
聞き馴染みのない文字列が耳から入り脳に到達したが思考が追いつかない。周りを見ると皆、頭の上にクエスチョンマークを浮かべていた。生徒会の業務終わりにくっちゃべっていた俺たちは趣旨がはっきりしない張本人に目を向けた。
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