13幕:人形使いは魔物退治をする 下




「ホットル、コルドル!!」


 僕の叫びが町中に轟いた。

 騎士のぬいぐるみホットルは右から、魔法使いのコルドルは左から、それぞれ戦闘用の特性人形たちを引き連れ奴の注意を引きつけながら飛び出して行った。


 また奴の後方からも熊のハニー、犬のボーン、猫のウィッシュたちが同じく軍団を引き連れ迂回している。当然、奴が吐き出す光線から身を守るために建物の瓦礫などなど死角になるものは全て利用してバレないように暗躍させていたんだ。


 そして僕の合図とともに全方位から一斉に襲いかかる算段だ。

 奴の注意を皆で引き付ければ僕になんて見向きもしないだろう。

 その隙をついて僕が必殺の一撃を叩きつけるんだ。


 僕の『人形化』という必殺の一撃をね。


 僕の掛け声は始まりの合図。

 そして一斉に仲間たちが奴に襲い掛かった。


 突然の出来事に奴は驚愕したようだ。

 光線が縦横無尽に放たれ乱れたからだ。

 でもそんな闇雲に放ったところで当たるわけがない。

 僕たちと奴のサイズ差は天と地ほどの差がある。アリのごとく奴の体に群れた僕たちを相手に自分の体を犠牲にしてまで光線を放てるわけがないのだ。

 そもそも完全に死角からの攻撃だし奴の射線上に入るわけがない。

 それにこの隙を僕が見逃すはずがない。


 明後日の方向へと白く迸る光の帯を掻い潜り奴の懐とへ僕は突き進んだ。

 すでに町のあちこちから火の手が上がり暗闇でも明暗な箇所が際立っていた。

 特に山のように大きな巨体の周囲にはその巨体に沿うだけの闇が広がっている。


 その一角の中にすぐに隠れ込んだ僕は内なる神経を集中させた。

 己の中に流れる魔力の本流を静かに落ち着かせ全身を巡らせるように還流させる。

 奴のような巨体を己の僕とするにはとんでもない量の魔力が必要になるかもしれない。

 それがどのくらい必要になるかはわからない。

 下手をすればその場で魔力欠乏により大事になるかもしれない。

 それに僕が倒れれば仲間たちが町の人たちが全てが終わってしまう。


 だからこそ失敗はできない。


 確実に『人形化』させるために魔力の質を向上させるべく己の中で研ぎ澄ませる。


 もう少しだ。

 みんなもう少し上手く時間を稼いでくれ、、、!?


 その時だった。

 暗闇に浮かぶ奴の巨大な瞳と視線が触れたような気がしたんだ。

 突如にして全身に鳥肌が立ち悪寒が襲った。


 そして高められた魔力が一気に霧散した。

 同時に体から力ががくんと抜けた。

 視線がひっくり返り意識が朦朧とする。

 なぜか震え出す体が地面から離れることができない。

 手も顔も膝も、、、、。


 でも、、、

 ここで終われない、、、

 終われないんだ、、、


 力が入らなくても意識が擦れても這い蹲り必死に起き上がろうとした時、僕の前に何かが躍り出たんだ。

 それは一瞬の出来事だった。

 暴虐の限りを尽くそうとする山のように大きな巨体の何かが瞬時に消失し目の前に黒い何かが出現したんだ。

 人の姿のように見える異次元の闇を凝縮させたような何かが。


 そして僕は瞬時に理解した。


 その異形の雰囲気を放つその黒い何かは人が触れてはいけないものだということ。

 手を出してはいけないものだということ。

 人間なんかに太刀打ちできるものではないということ。


 そして僕がこの場で殺されるということを。


 黒い何かが静かに少しずつ近づいてくる。

 時が止まったような時間が残酷だった。

 あれだけ全身の感覚が打ちのめされても意識だけが未だに狂わない。


 奴はこの僕に一体何をしようとしてるのだろうか。

 今のままでは逃げ出すことも抵抗することもできない。


 僕は何かの力に引っ張られるようにそのまま宙に浮かされ何かに磔にされた。

 見えない力のせいで身動き一つ取れやしないし何か嫌な感じがする。

 僕の全身に突き刺さる何かは、、、まるで何者かに覗かれているような感覚だ。


 まさか、、、僕を見て、、、る?


 そして奴の瞳らしきものが浮かび上がりそのまま距離が狭まっていく。

 意識を瞳から逸らすことができない。

 そのまま意識の中に何かが入り込んでくる!?


 僕を、、、取り込む、、、つもり、、、か?


 僕の意識がその瞳の中へと完全に吸い込まれそうになった時だった。


【阿修羅悪即斬!!】

【地獄炎獄招来!!】


 周囲の建物ごと両断される鋭い斬撃が飛び交い、そして黒い炎が周囲を覆い尽くした。


【【待たせたな相棒シュガール!!】】


 そして二つの小さな影が闇夜に照らされた。


 人は定められた運命を寸部も狂いなく受け入れることができるだろうか。

 大切な人が窮地に陥った時、誰もがそれを許容できるだろうか。


 僕にはそんなことはできない。

 僕ならば絶対に受け入れない。


 そして当然、彼らもそんなこと許せるはずがないんだ。


 全身を縛り付ける得体の知れない力は消え去った。

 そのまま崩れ落ちる僕の目の前に現れたのは大切な相棒たちの姿だったんだ。





大ピンチに駆けつけたぬいぐるみホットルMk-Ⅲ、コルドル改参

(๑• ̀д•́ (๑• ̀д•́ )✧:やらせはせんぞ!!


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