二通目 便箋一

拝啓 僕の親友

君のいる世界では入梅の季節となりましたが、風邪などはひいていないでしょうか。気温の変化に弱い君だからほんの少しだけ心配になります。もし風邪を引いたら何があっても学校は休むように。以前修学旅行前日にインフルエンザにかかったのにも関わらず何事もなかったように登校してお医者さんに注意された事、忘れてないですよね。熱が下がってるのならうっかり来た事も大目に見ますが、40度もあったくせに来るなんて阿呆です。しかも御丁寧にベッドにダミーまでいれて自室がある二階の窓からシーツを伝って来る始末。様子を見に行ったおばさんが気を失うのも分かります。後生ですから大人しくしていてください。

僕は変わらず今出来る精一杯の事をしていますが、それでも足りないぐらいには忙しい日々を過ごしています。

周囲は君に負けず劣らず自己が強い方々でいつも振り回されます。が、「君といた」という経験があるので少しはましに感じています。感じるようにしています。

高校生だった僕は急に就職したような気分ではありますが、元の世界へと戻ったときに活かせるようただこの時を僕は頑張るのみです。



『神様の住処』は美しいところだ。

色とりどりの花畑が広がり白を基調とした建物が点在して、人間と動物が穏やかに過ごしている。時はゆっくりと流れ、日差しは眠気を誘うほどに優しい。基本的に生前の疲れを癒しているものは自由である。寝て過ごす者もいれば満足いくまでご飯を食べている者、遊びに興じる者。生前何か物作りをしていた者の中にはここに来ても料理や絵画、彼の国の伝統工芸品を作り神殿へと持ってきてくれたりしている。その表情は常に満足そうにしていた。前にスランプなどは無いのか聞いたところ、それも込みで物作りだと言っていたおじさんを見て僕には到底届かない境地だと彼に心底感心したものだ。暖かな、まるで母の胸に抱かれているかの安心感がここで暮している人たちを包んでいた。窓から見える穏やかで平和な世界を見て自然と微笑みが溢れた。


一等立派な宮殿と言って差し支えないこの神殿を除いて。


「豊穣の神、ですから何度も言ってるじゃないですか!ここ地盤すっごく弱いから後数百年待って下さいってぇ〜」

「そう言ってもう数千年待ってんだよいい加減にしろよ遅ぇよ!それでも地の神かよ!!」

「だってぇ〜貴方が言う事をお聞き下さらないから強化を進めようにないんですって…貴方の暴走を止める僕の身にもなって下さいよぉ」


「あのですね愛の神。貴方がどれだけ地上の恋人達が愛おしいかは知っています。ですが流石に恋敵が現れたからと言って斧を持って地上に行くのは見過ごせません」

「私だってこんな事したくはありませんが一方的に愛しい方を奪うのは愛の神として頂けません。大丈夫!ちょっと痛い目にあうだけですから!」

「真実の神としていいますが嘘ですよね絶対。ダメなものはダメなのです」


「今日はこれだけ。明日はこれぐらい」

「少なすぎる。増やしたら?」

「誕生の神、50年前、ベビーラッシュしたから調整したい。だからこれだけ」

「極端。死の神、明日の再調整しないと」


「とりあえず来年はこことここの戦を予定してるみたいなんだけど…聞いてるかい、戦いの神」

「聞いてる聞いてるって…あ、手に持ってる花が違う。最近の間違い探しは間違い細かすぎでしょ。こんなの分からないって。こうちゃんする?」

「やらないよ。てか、いい加減仕事してください。あと、こうちゃんじゃなくて俺は幸運の神だから」


四方八方から聞こえてくるのは神々の声。意見をぶつけ合ったり、素行を注意したり、事務的な会話だったり。うん、僕一人では考えられないような事を話他の神に話す事は大いに結構である。


「煩い…」


それを僕の、決して狭くはないが広くもない、執務室で行うのはどうしてなのか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

拝啓親友、訳あって神様になりました 良夜 @ryouya_05

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ