一通目 便箋三

その一族は神様との子どもを大切に育て様々な教育を施し、そしてそれ以上に愛情も与えた。子どももそれに答えるかの様にすくすくと成長し立派な王に、そして本当に稀代の盟主となった。誰にでも平等で分け隔てなく民を愛し、他国と様々な分野で研鑽をし、悪には正義の鉄拳を向ける。まるで物語に登場する理想の王だった。神様との関係おかげか、王が訪れた土地は荒れた大地に花を咲かせ、沢山の実りを与えた。澄んだ水も湧き、住んでいた住民の喉を潤す。世界は本来の姿を取り戻し始めていた。そしてそんな王も子を作り育てその子どもも立派な王となり、尊い血は続いていた。はずだった。


「それがお家騒動でぜーんぶパァ。あれだけあの子には人には優しくとか無意味な殺生はしてはいけませんって言ってたくせにね」


頰を膨らませる神様。語彙力が無くなってしまうほどに可愛らしかった。

余程酷かったらしく女、子ども関係なく、産まれてすぐの赤ん坊ですら生きたまま野犬の餌となったという。大人も大人で持てる武力を盛大に使い城を倒壊させ何人もの人が犠牲となり、争っていた代表の者たちは結局は相打ちとなり勝者はいなかったらしい。

だがそれだけではなかった。


「おまけに天災で割と濃い血族もパァ。私の血を求めるなら、長い時間のおかげでいろんなところに繋がりは広まっているけど今残っているのは血も関係も薄い、『え、自分神様の血継いでるの?なんて冗談?』っていえる子達ばかり」

「それは、まぁ大変ですね」


おまけに本来ならその一族が無くなっても自然は自分の力で立っていけるのだが、長い年月の間その一族に負んぶされていた状態だったらしく、世界の自然バランス的なものも崩れかけているらしい。とりあえず神様は自然に自立する様に叱咤したという。自然に叱咤って変な言い方ではあるが当の本人が叱咤したと言ったのだ。そういうことと捉えるしかない。考えるのはやめた。


「まぁ自然はちょこっとずつ良くなってはいるんだけど、その間にまた面倒なことが起こっちゃって」

「それは?」

「どっかのお馬鹿さんが魔王を作っちゃったらしくて今世界は再び滅亡の危機に晒されてるのよ」


ここに来て魔王キター!


「魔王ってあの魔王?」

「イマイチ君の考えている魔王が分からないけど、この世界の魔王は何かを限界まで極めた人間がなんらかの事象により絶望の淵に落とされ、なんやかんやイケナイ人と契約を結んで悪くなっちゃった!って感じの子」


僕と契約して魔王になってよ。


「うん、そんな感じ」

「まじか」


言ってみるものである。

その魔王はよくあるライトノベルの悪役のように配下の化物を世界に放ち、人を皆殺し金品を奪い最後には村や町を燃やして回っているそうだ。なんかよくある展開で新鮮味がない。だいたい村とか焼く意味が分からん。


「君の世界の魔王像っていうか設定はイマイチ分かんないけど、こっちは人を殺して村や町を焼くでしょ。すると殺された人の魂はここ『神様の住処』ではなくて命令を下した魔王のとこに強制的に移動するの。で、その魂を利用して新しい化物を創るって感じ」


この世界では死んだ人は善悪問わず一度は魂となりこの『神様の住処』へと導かれるらしい。良き行いをしたものは一定の期間生前の疲れを癒し転生、希望すれば神の御使としてここでの生活も可能だそうだ。一方悪い行いをしたものは僕の世界でいう地獄…というものはないので魂を完全消滅することになるらしい。ただ重々酌量の余地ありと判断されれば罪を償い転生出来るという。だがこの魔王の行いは術により本来ここに来る魂を自分の元へ引っ張り、転生の法則を利用して化物の創っている。この行いは神だけに許された事らしく、不満たっぷりな神様は頬を膨らませていた。表情以上にご立腹のようだ。


「じゃあやっぱり僕をここに呼んだ理由は魔王を倒せってこと?」

「え、違うけど」

「じゃあなんなんだ…」


目の前の神様は一瞬キョトンとして、次にはニッと頬を上げまるで悪戯を成功させた子どものように可愛い過ぎる笑顔で言った。


「君にはね、私の代わりをして欲しいの」


ねぇ、神様に興味ないかしら?

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