一通目 便箋二

親友よ、僕は今まで比較的には良い行いをしてきたと思っています。電車でお婆さんに席譲ったし落ちていた空き缶は拾ってゴミ箱に入れました。クラスの友達の相談にも乗って、来年の両親の結婚記念日には長期休暇利用してやっていたバイトで貯めたお金を小旅行の資金として使って貰う予定です。いい事を地道に行っていけば死んだ先は必ず天国だと信じていました。はい、信じていたんです。僕はキリスト教徒でも仏教徒でもないですが天国という漠然としたものは君は意外と言うかもしれないけど、信じていました。


「お答えしましょう。ええはい、私は君の世界でいう異世界の神様です。それも最高に偉い凄い神様です」


ボードをたわわな胸に抱え、何か問題でもありましたかと言わんばかりの顔だった。ドヤ顔だった。あといろいろとボードからはみ出てます。具体的に言うと横乳。

いや、そうじゃない。なんで僕は他の世界の神様に死亡宣告されないといけないのか。普通…かどうかは知らないけど、普通なら自分の世界の神様とか天使が迎えにくるだろう。そして手っ取り早く天国に行くか転生したい。


「地獄に行くのはいやなのね」

「この世で早く地獄に行きたいと願う人なんてあんまりいないでしょ」


まぁそうよね〜と呑気に笑う。


「ご説明しますと随分と昔に私の世界に来たいという無礼な魂がありまして、君の世界の神様とお話し合いの末仕方なくお迎えしました。早い話言い負けました」


よくある異世界転生モノですね、わかります。僕もよく読んでました、俺つえーモノ。そして言い負けたのかよ。

簡単にいうと、その魂を引き取り転生させたのは良いもの、場を引っ掻き回して挙句の果てには世界を滅亡のどん底まで叩きのめしたらしい。僕の世界の魂どんだけアグレッシブなんだ。


「だから同じ世界の僕にでも責任を押し付けようって算段ですか?」

「え、君私の世界に転生したいの?俺つえーしたいの?…神様引いちゃうよ?」


軽蔑する様な目をされた。そんな風に言わないでもいいじゃないか。僕も男の子です。ちょっと期待するぐらいいいじゃないか。剣と魔法の世界でやってもいない罪を償いつつ仲間と協力して困難に立ち向かう…あ、たんま、恥ずかしくなってきた。なしで。


「でも安心して。その問題はすでに解決してます。分かりやすくいえば千年ぐらい前に。さっきの言ってくれた様に君の世界の子に救ってもらいました。でも責任は転生させちゃった私にもあって」

「まぁ、言い負けたとしてもやっちゃったものは仕方ない」

「そう、だから罪を償うとして私はぱぱっとその世界の代表の子と子どもを作りました」


はい?


「正確にいえば性交渉の末というよりは無から有を創ったっていう方が正しいんだけど」

「美人から性交渉とか聞きたくなかった」


しかも話している神様は真面目な顔してるし。僕の感性がおかしくなったのか、神様の感性がぶっ飛んでるのか、些細なことなのか。

僕のツッコミをスルーして神様は話を続けた。


「この子を無事育てあげれば稀代の盟主となり、世界は再び潤いを取り戻し穏やかさを取り戻すであろう…ってまぁ神様っぽくそれっぽい事を適当に言って私はお空に戻りました」

「突っ込みたいところはあるけど、それで問題は解決したんだろ?」

「そう、解決はしたんだけど」


少し迷った様な口ぶりを見せ、神様は遠い目をして言った。


「根絶しちゃったのよね、その一族」


あはは、と乾いた笑みが零れた。遠くを見つめる美しいその横顔が、以前親友がうっかりテストの答案用紙に名前を書き忘れ『名前書いてたらいい点数だったんだけど、な』と言っていた姿と重なった。じゃなくて、


「まさかその一族がいなくなったからまた世界が滅亡に?」

「…えへ」


今まで見た中で一番美しいてへぺろだった。

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