第9話立ちはだかる物は

2人は困っていた。

花を手に入れたものの、この氷の穴から脱出する方法が浮かばない。


「ねえメル。魔女なら魔法で空とか飛べないの?」


そう言って期待の目を向けて来る少女。

しかし、メルの表情は固い。

すると、上からキャプテンの笑い混じりの声が響いてきた。


「メルは魔女だけど、言ったろ?少しの魔法しか知らないって。今出来る事は、プリンを召喚するぐらいのプリン使いさ!」


それを聞いたメルは、顔を真っ赤にして怒っている。


「キャプテーン!!後で覚えてなさーい!」


隣で怒るメルを見て、少女の頬が思わず緩む。この状況でも、緊張感の無い2人のやり取りがおかしかったのだ。


その時、ドーン!!という音が穴の中に響き渡る。何かが壁をぶち抜いて来たようだ。

驚いて後ろを振り返る2人。

そこには、見たことのない様な大きなクマが居た。

2人の身長の倍以上はあるその巨体に、思わず後ずさる。

どうやらこの場所、熊の巣穴になっていた様だ。


「これはマズイ!」


そう言ってキャプテンも、上から飛び降りて来た。

熊と2人の間に入り、臨戦体勢を取る。

睨み合いが続く中、キャプテンが唸り声を上げながら熊に言う。


「すまないが、オレ達はここへ花を取りに来ただけだ。もう用は済んだし、ここを通してくれないか?」


しかし熊は、威嚇を続けたままジリジリと近づいて来る。襲って来る気の様だ。

仕方ないとキャプテンは呟き、牙を剥き出しにする。

虎と熊、二頭の獣が今まさにぶつかろうとしている時、ふと少女は言った


「その熊、お腹が空いてるだけなんじゃないかな?」


その声に、皆固まった。

何を言い出すんだと呆れた目で、少女を見るキャプテンと、それだ!と目を輝かせる対照的なメル。

少女は続ける、


「ほら、冬眠中の熊がお腹を空かして起きる事も有るし、それかな〜って。」


「なら、どうしろってんだい?オレ達食べ物なんて持ってねえぞ!それとも、3人仲良くコイツの餌になれってか?」


呆れた口調でキャプテンが言う。もう、どうにでもなれと言った様子だ。

うーんと少女が悩んでいると、目を輝かせたメルが、少女の肩を叩いて言った。


「私に任せて!いい作戦があるの!」


そう言うと、メルは人差し指を立て、歌い始めた。小屋で歌った時とは違う、力強い声だった。

思わずその歌声に聴き入る。大地の鼓動の様に力強く、身体の奥底へ響く歌声は、聞く者を圧倒し、全身を包み込む様だった。

そして、光が集まって来る。以前より輝きを増した光は、メルの指先へ集まり、さらに力強く光る。


「〜♪♪♪!!!」


歌と共に渾身の力で指を振る。

指先から放たれた光は、熊へと一直線に向かい、その姿を飲み込んだ。

あまりの光に少女は目を瞑る。それでも眩しほど強烈だった。


「もう大丈夫だよ♪」


メルの優しい声で、少女は目を開ける。

見ると、光は消え、熊が居たところには巨大なプリンがあった。


「えっと、メル?まさか熊をプリンにしちゃったの?」


恐る恐る尋ねる少女に、メルは誇らしげに答える。


「そんな酷い事しないよ!ただプリンを上から被せただけ。ちょっと固めだから、しばらく動けないけどね。でも、熊がプリンを食べたら、また動けるよ!」


「熊はお腹いっぱいプリンを食べれる、メル達は襲われずに済む、正に一石二鳥だね!」


そう言って胸を張るメル。少女は驚きで言葉が出ない。よくそんな作戦が思いつくものだ。


「メル、意外とやる事エグいな。あんまり怒らせない様にしよう。」


キャプテンがボソッと小声で言った。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る