第8話奇跡の花
「イテテテ、ここどこだろ?」
身体を起こしながメルが呟く。隣には少女が横たわっている。
それに気付いたメルは、慌てた様子で少女の肩を揺する。
「ねえ君!大丈夫!?」
アタフタと尋ねるメル。
すると、うーんという声と共に少女が目を開けた。
ひとまず安心したメルは、辺りを見渡す。
周りは高い氷の壁に囲まれていてドーム状になっている様だ。上を見ると、天井に穴が空いて、光が差しこんでいる。どうやら、2人が乗った事で一部抜けた様だ。
そこからキャプテンの声が聞こえてくる。
「おーーい!2人とも!無事かー!!」
珍しく焦った様な声に少し笑いながら、大丈夫だよと応える。
さてこの状況、どうしよう? と考えていると、少女があっ! と声を上げる。
どうしたのかとメルが目を向けると、少女は一点を指差している。
その先には、氷の様に透き通った花弁を持つ、一輪の花が咲いていた。
「これが奇跡の花なの?」
そう呟き、少女は花に歩み寄る。その後にメルも続く。
壁際にひっそりと咲いているそれは微かに光り、繊細なガラス細工の様だった。薔薇の様に幾重にも折り重なった花弁は透き通り、触れれば崩れてなくなってしまう。そんな儚さを持つ花だった。
「本当にあったんだ。やっと見つけた。良かった。」
そう呟く少女は、瞳を潤ませ、その場に膝をつく。これで父が助かるという安心感からか、涙が溢れて止まらない。
隣にしゃがんだメルは、その様子に、良かったねと声をかける。
自分も、胸の奥から熱いものが込み上げて来るのを感じた。
そしてふと、メルは花の後ろの壁に目を向ける。何故そこが気になったのか、本人にも分からない。
そこには、氷に包まれた石碑が見える。
ー親愛なる君へ いつか来る日に この花を捧げるー
石碑にはそう書かれていた。それを読んだメルの脳裏には、不思議な景色がよぎる。
それは緑に囲まれた山だった。辺りは花が咲き誇り、木々が生い茂る。鳥がさえずり、生命に満ち溢れた場所だ。
サラサラと清流の流れる小川があり、近くに小屋が建っている。
その場所にポツンと石碑があり、側には誰かが佇んでいる。姿ははっきり分からないが、石碑に何か書き込んでいる様だ。
ふと顔を上げ、その人は振り返り、こちらを見た。
そして優しく微笑んで言った。
「(お帰り、愛しい君。覚えているかな?)」
少女の呼び声で、メルはハッと我に帰った。
「メル、大丈夫?どこか具合悪いの?」
心配そうに覗き込む少女に、大丈夫だよと答える。
さっきのは何だったのか、考えるのは後にしよう。そう思い、メルは立ち上がる。
「さあ、早く花を持って帰ろ!お父さんが待ってるよ!」
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