第7話静寂の世界
メルを乗せたキャプテンと少女は雪山の奥地、巨大な雪洞を潜り抜けた先に居た。
巨大な氷と、雪の壁に囲まれ、そこだけが広場の様になっていた。
周りは彼等以外に生物の気配は無く、酷く静かな場所だった。
「ここにその花があるの?見た所、何も無いけど。」
メルは辺りを見回しながら少女に尋ねる。
澄んだ声が、静かな銀世界に吸い込まれて行く。
「うん、ここだよ。この場所にしか咲かないから、奇跡の花って呼ばれていて。噂はあるけど、実際に見た人は居ないとか。」
そう少女は答える。その顔は不安と希望が入り混じった複雑な表情だった。
「見た人が居ないなら、存在するか怪しいな。本当にあるのか?」
不満そうにキャプテンが呟く。
そのキャプテンをなだめながら、明るい声でメルが言う。
「大丈夫!きっとあるよ!私が保証する!なんでか分からないけど、きっとここにあるって気がする!」
少女も小さく頷く。メルの言葉に励まされた様だ。
「(やはり、メルは何かを感じとっいてるのか?)」
キャプテンが考えいると、メルが背中から降りて来た。
「とりあえず、手分けして探そう。メルは右から、君は左から、キャプテンは中央を探そう!」
おー!と2人の声が響いたのち、散策が始まった。
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2時間ほど経っただろうか。3人は再び集合していた。
散策の結果も虚しく、何もまだ見つけられないでいる。
「やっぱり噂だけだったな。」
キャプテンが静かに言う。
その声は冷静で、事実だけを伝える感情のない声だった。
「もう一回探してみよ!もしかしたら見落としてたかも知れないし!」
明るい声でメルが提案するが、残る2人の顔は暗い。
「ううん、もう大丈夫。ありがとう2人とも
一緒に探してくれて。」
少女は消え入りそうな声で言う。その目には涙が浮かぶ。
彼女にとって、最後の希望が断たれたのだ。
その姿を見て、居た堪れなくなり、メルは再び探し始めた。何としても、花を見つけたかったのだ。
「メル、やめな。周りを見て、もうすぐ吹雪が来る。」
キャプテンが、冷静な声を崩さずメルに話しかける。
顔を上げると、空が暗くなっていた。
今の心境を表す様に、黒い雲が辺りを覆い始め、風が吹いて来た。
静寂に包まれていた世界が、冷たい風の音に支配されていく。
「早くここを離れないと、3人とも吹雪に巻き込まれる。そうなったら仲良く遭難だ。」
そう言うキャプテンの言葉を遮る様に、メルは力強く言う。
「もう少しだけ探させて!きっとここにあるから!」
なぜそこまで必死になるのか理解出来ない、と言う顔をするキャプテンを尻目に、メルは再び歩き始める。
「メル、もう良いよ。ありがとう。早く帰ろ。」
少女はそう言ってメルに近づくと、そっと肩を叩いた。
その手は、震えている。事実を受け入れられないと言った様子だ。
「でも、、、」
メルが呟いたその時、パキっという音が足元から聞こえた。
次の瞬間、2人の足元が崩れた。雪庇を踏んでいた様だ。
「メルーーー!!!」
叫ぶキャプテンの声を聞きながら、2人は足元の、ポッカリと空いた穴に飲み込まれていった。
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