第2話銀の髪の少女

目を開けると見知らぬ部屋に居た。

雪に埋もれていた身体はベットに寝かされ、暖かい毛布が掛けられている。

先程の雪山での銀世界とは違い、木造の天井、壁、床、冷たい風の音の代わりに、パチパチと薪の燃える乾いた音が暖炉から聞こえる。

どこかの山小屋にいるようだった。


「(一体誰が助けてくれたんだろう?)」


周りを見ようと身体を起こす。少し気怠いが動けるようだ。

すると、ベッドのすぐ側から声がした


「やっと目を覚ましたか。もうダメだと思っていたんだけどね。」


その低く唸るような声に驚き、下を見る。

そこには白い大きな虎がうつ伏せに寝ていた。

驚きのあまり声が出ない少女を尻目に、その虎はゆっくりと伸びをし立ち上がる。

白く美しい毛並みの大きな体、鋭い牙と爪、獰猛そうな見た目とは違い穏やかな青い瞳と、優しい顔。

あっけに取られながらも少女は尋ねる。


「あなたが助けてくれたんですか?」


「いいや、違う。君を助けたのはオレの主人さ。オレはここまで運んだだけ。君は運がいい。」


そう言うと、虎は背を向け、扉の方へゆっくりと歩いていく。

あとを追おうとして立ち上がると、足がフラつき、思わずベッドに尻餅をつく。


「まだ寝てな。オレは主人を呼びに行く。君の事を心配していたからな。」


そう言い残し、部屋を出て行った。

1人残された少女は、またベッドに横になる。

ここは何処なのか?誰が助けてくれたのか?あの白い虎はなんなのか?山で聞いた歌声は何だったのか?

そんな事を考えていると、ドンっと勢いよく部屋の扉が開いた。


「おはよう!目が覚めて良かった!」


そう言って入って来た少女、透き通る様な白い肌に青い瞳、桃色がかった銀髪の少女は嬉しそうにベッドへ駆け寄って来た。


「もう身体は大丈夫?どこか痛い所とか無い?熱は無いみたいだね!気分はどう?お腹すいてない?!」


こちらが答える間も無く、次々と銀髪の少女は話しかけてくる。

呆気に取られていると、白い虎がなだめに入ってくれた。


「メル、落ち着けよ。この子は起きたばかりなんだ。もう少しゆっくり喋ったらどうだ?」


呆れながら白い虎が言うが、メルと呼ばれた銀髪の少女は、まだ興奮が治まらない様子だ。


「だってキャプテン!こんなに嬉しい事ある!本当に良かった〜。」


そう言ってベッドの上の少女を抱きしめる。

あまりの勢いについていけない少女であったが、抱きしめられると、どこか安心感を覚えた。

先程まで生死の境を彷徨っていたのが嘘の様に感じられ、夢だった気さえする。

しばらくは人形の様に抱きしめられられていた少女だが、冷静になるにつれて恥ずかしくなって来る。

この状況をどうしようと考えていると


「もうそろそろ離してやりなよ。メル」


キャプテンと呼ばれた白い虎が助け船をくれた。

銀髪の少女はハッとし、申し訳なさそうに離れる。

そして軽く咳払いをし、改めて話し始める。

今度はゆっくりと優しい声で。それはまさに、雪の中で聞いたあの声だった。


「えっと、自己紹介もまだだったね。私はメル、メル・アイヴィーです。こっちの白い虎は私の友達で、キャプテンって言うんだ。

君は雪の中で倒れてたんだけど、覚えてる?」



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