第2話 一撃

火炎魔法の轟音がコロシアムに響いた。フィムは魔法を避け続け、キルクの火炎の乱打をものともしなかった。

「避けてばかりかぁ?!」

魔法陣が現れ、フィムを火球が襲った。

「しょーがない、やるか、『アーツ』。」

とうとう攻撃を仕掛ける素振りを見せたため、会場の視線が集まった。フィムの右手に魔力が現れた。

"さァ!ついにここでファムの反撃かァ?!魔力0の男、どこまで私たちを楽しませてくれるんだァッ!"

「『剣-ソード-』」

形成呪文、アーツ。その上位がオーバーアーツである。上位になれば、数、大きさが変化し、詠唱者本人の意思で変化可能だ。本来五業のひとつ、無属性に位置するが、体術でも応用可能。フィムの右手にどこからともなく剣が現れた。

「ほぅ、体術でアーツができるのか、面白い。避ける気はもう無いんだな?」

「うーん、微妙だけど、勝たなきゃ終わらないしね。」

二人は瓦礫の上で向き合った。だが、キルクは余裕の笑みを見せていた。

(いいこと思いついた)

「やる気を出してくれたところすまんが、もう蹴りをつける。」

そう言った瞬間、キルクは上空にいき、地上に向かって呪文を放った。

「『地炎波-グラウンドバーニング-』ッ!!」

キルクの手から放たれた炎は地面を這い、闘技場の地面を覆い尽くした。

「本来なら広範囲攻撃に使うやつなんだが、今回ばかりは別だ。魔力がねえってことは、無属性の基本、『浮遊』すらできねえってこった。つまり、」

そうしてキルクは、攻撃を避けるために跳躍したフィムの方を向いて、笑顔を見せた。

「降りた瞬間、君の負けだ。」

"この攻撃は痛いィッ!!フィム選手の敗北が決まってしまうのかァッ!?!"

キルクの機転を効かせた攻撃だった。魔力がない時点で、浮遊はできない。フィムの負けが見え始めていた。

フィム以外には。


なんて?

地面に降りる瞬間、フィムは、


空気中で留まった。


「な、、、、っ?!」

「中級体術、『超速』。聞いたことあるか?」

超速。浮遊状態の人間が、空中での高速移動を可能にするために作られた体術である。浮遊だけではどうしても移動速度に限界があるため、体術を取り入れたのだ。

「、、、知らないわけがないだろ、、。てめえが今やってるのは、超速でもなんでもないだろッ?!」

キルクは声を荒げたが、フィムはなんともなさそうな顔でキルクに返事をした。

「そうだよ、この体術は超速を元に作った新たな体術だ。」


この発言とフィムの行動には特別席の人間も驚かざるを得なかった。

「自ら体術を作ったってのか、、??」

「あり得ないですねぇ、体術というのはすでに完成しているもの。新たに作るなど、、」

ギルドランキング7位、リーダー、リック・ストラデンも呆気に取られていた。

「じゃあ、どう説明するんねん、あれを。見たことない体術やんけ、、、」

しかし、驚かないものが一人。総裁だった。

総裁が小さく声を発した。

「そりゃそうだろ。俺らはあんな体術、作る必要がなかったんだから。俺らの盲点なのさ。先人たちは作ろうと思えば作れたはず。だが、浮遊ができるのに、作る必要なんてなかった。浮遊を自ら作るか、恐ろしいな。」

その声は、喜びに染まっていた。


「そうだなぁ、名付けて、『空歩』、かな。」

フィムは考えるそぶりを見せた。

「ふざけるなよ、、、てめぇ、、。一瞬で終わらせてやる。」

キルクは、場内を覆っていた炎を消し、右手をフィムの方へ向けた。

「俺はこの大会で勝たなきゃなんねえんだ。邪魔すんなよなぁっ?!『業火』ッ!!」

キルクの右手から炎が出現した。業火、通常の炎を強化させたものである。炎を呪文を使いこなさなければ、出せないものである。

「『紅焔-ザ・フレイム-』ッ!!焼き尽くせっ!!」

瞬間。その呪文がフィムを覆ったのは一瞬の出来事だった。キルクは右手に出した業火を無属性の高速飛翔呪文『飛刃』に乗せて、紅焔を構築した。非常に高度な技だった。しかも、飛刃に至っては無詠唱。キルクは本気だった。加速した炎に、会場は熱狂した。

"スゴイィッ!!両者ともに白熱しているゥッ!!しかし、ここで加速した炎!!キルク選手、とどめかァ?!"

しかし、 覆った炎は真っ二つに切られた。フィムの剣によって。

「上級体術『術断』。見るのは初めて?」


「な、、、術断だと、、?!」

アースは驚きを隠せずにいた。揺れたテーブルで紅茶が飛び跳ねた。驚くのも無理は無かった。

「ありゃぁ、上級戦闘員クラスかな、、。よくもまああの歳で。」

'一位'の男も呆れた声をだした。

「だけど、あの様子じゃ、本気、では無さそうだ。」

総裁はそう付け加えた。副総裁は、フィムの姿を凝視していた。これから起こる未来を見定めるかのように。


"切った、呪文を切ったぞォッ!!!

「ちくしょう、、、ッ、、テメェェッッ!!!」

キルクは怒りをあらわにし、拳に炎を纏い、殴りかかった。フィムはすいすいと避けた。

「なんで、、なんで勝てねえッ!!」

必死に殴るも当たることはなかった。

「勝負だからさ、そろそろ決めるわ」

フィムは、そう言い放ち、殴りかかってきたキルクの右腕を左手で掴んだ。

「ぐっ、、?!」

右手をキルクの腹部に当て、構えた。

「テメ、、ッ?!」

「すまん。」


『牙気砲-エナジーショット-』


一撃。その一撃はその場を震撼させた。会場はその凄まじさに静かにすらなった。キルクは吹き飛ぶことはなく、その衝撃に耐えられずに気絶し、倒れた。

"、、、、だ、第四ブロック、、勝者は、、フ、フィム・ランドロスだァァァッッ!!!"

「やった、勝てたー。」

フィムは笑顔で座り込んだ。会場はこの光景に賞賛をし、騒ぎ立てた。


「ななな、なんスカいまの?!」

ラルフはアースに問いただした。アースもふと我に帰り、ラルフの方を向き、説明をした。

「今のは、牙気砲。狙った対象の内部、所持魔力に強力な衝撃を与えるが、対象外部に損傷は与えない技。つまり、血を流さない一撃だ。大きな特徴として貫通する。故に、キルクの後方の壁には大きなクレーターができた。魔力量を多く持つものなら、耐えうるが、キルクは多くの魔法を使ったため、魔力量が少なかった。だから、倒れたんだろう。」

「吹っ飛ばす技じゃないの?」

ラルフは興味津々に聞いた。

「お前の魔法とは違う、吹っ飛ぶものか。あれは、気の一撃。フィムは最初からそれを狙っていたのかもな、、、。だとしたら、凄いな、、。」


"えー、コロシアムがボロボロなので、補修班は急いで修理を!"

フィムは勝ち残ったため、二回戦の控え室に通された。

「おお、さっきより広い。」

机の上に置かれたお菓子を見て、飛びついた。

「うお!やった、お菓子じゃんか、これ美味しいやつなんだよなー。」

フィムがお菓子を食べていると控え室がノックされた。

「ふぁい、ほうそ。」

「おいおい、口の中がパンパンじゃないか。」

そこには一人の女性がいた。

「フィム、と言ったな。いい試合だった。」

「あ、ども。」

フィムはお菓子を飲み込み、茶で流した。身長が高く、魔力量はキルクよりも多い人間だった。

「魔力無しであそこまでとはね。でも、」

少し笑顔で女性はフィムを見た。

「次はうちが勝つから。容赦はしないよ。」

そう言って、女性は部屋を出た。

「、、、みんなやる気がすごいなー、、」

フィムはお菓子を食べ続けた。次の相手のこの女性、リン・ドットが


九十九人を一撃で倒した人間だとも知らずに。











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アウトサイドオブマジック @izanami00

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