アウトサイドオブマジック

@izanami00

第1話 目覚め

"さあァ、やって参りましたァ!毎年恒例、ギルドからのスカウトを勝ち取れェ、ルゥーキーズバトルロードォォォォ!"

ハルルディア大陸、西部の都市、キンス。ここでは年に一度、腕に自信のある戦士たちが集まり、有名ギルド、あるいは政府軍からのスカウト受けるための大会が開かれる。大会という名のお祭りだ。優勝者には、政府軍に入り、軍隊が1つもらえるという、とんでもない景品なだけあり国中から強者があつまる。今年も一万人ほどの応募があり、ここキンスにいるのは、各地区の予選を勝ち抜いたおよそ千人もの猛者である。

"ではァ、大会の開催にあたりィ、ハルルディア王国政府軍総裁、ショーン・マキシム氏から、開催に際しまして、挨拶をいただきましょうゥ!"

闘技場の北側に設けられた特別席から、一人の男がすっと立ち上がり、拡声器の前に立った。最初からあった会場のざわめきはすっと消え、彼の持つ魔力の圧に固唾を呑むものが大半だった。なにせ、政府軍総裁など、表に出ることなどほとんどない。去年も一昨年も副総裁が代弁し、この大会で総裁が話すのは初めてなのだ。

「やべぇ、あれが総裁の圧か、、」

「ピリピリするな、、、」

会場は違った意味でざわめいた。彼が口を開いた。

「ええ、、なんつーか、頑張ってくださいねぇ。」

なんともゆるい発言に、会場の音が一瞬無になった。

(だから、こういうの無理だっていったじゃん!人前で話すの無理なんだって!)

「これも総裁のお勤めです。今年こそはきっちりやってもらいますからね。ささ、続きを。」

拗ねたような顔をした総裁が、副総裁に促されるまま、原稿を見ながら続きを話した。

「えー、今大会は、えー、自分をアピールする、えー、大事な大会です、えー、気を引き締めていきましょう。えー、以上。」

会場は静かなまま、総裁のスピーチを終えた。

"えー、、ではァ、これより!試合をォ、開始いたしまァァァす!!!"

我に帰った会場の人々から雄叫びが上がった。

この大会のルールはいたってシンプル、百人ずつに分けられたリーグで、一人の勝ち残りを決め、勝ち残った十人で、トーナメントを組み、最後は五人で決勝戦となる。

"ではァ、第1ブロックゥ、闘技場へ、お入りくださぁい!"

予選を勝ち抜いた選手だけあって、どの選手も圧が半端なものではない。それは会場にいたすべての人が理解していた。

"さァ、選手が出揃いましたァ!それでは時間ですので、試合を開始致しまァァァす!!"


コロシアム会場、4階、特別席。ハルルディア王国政府軍の中枢と有名ギルドのリーダー格の人間が椅子に座り、試合を眺めていた。

「今年も注目すべき選手の多きことですなぁ。」

ギルドランキング3位、『フラッシュ・フィック』のリーダー、クリス・フォールが口を開いた。

「当然やろ、予選から波乱だったんやぞ。」

「ギルドランキング7位が何を言うかと思えば。」

「あぁ?!別にいいやろこれくらい!」

二人の言い争いをなだめるものが一人いた。

「まあ、落ち着けよ。」

「1位はだまってろい!」

'1位'の男は優しく微笑んだ。

「それよりほら、例の男、来ますよ。」


ふぅん。

「興味深いね。面白そうだ。」

そう呟いた総裁が少しニヤついてコロシアムを見下ろしていた。

その目は好奇心にあふれていた。


"さあァ、第四ブロックのスタァートだあァァ!選手は位置についてェ!"

またもや、百人の選手がコロシアムに入り、戦闘の準備をしていた。

"始めェェェッ!!!"

ゴーンという、銅鑼の音に一斉にスタートした。

「『火炎龍拳』ッッ!」

開始早々、一人の男が空中に飛び上がり、下に向かって火炎系上級呪文を唱えた。

"おおっとォ?!出だしから火炎系上級呪文だぁッ!!放ったのは優勝候補の一角、キルク・ヴィクラムだあッ!"

「はっ、この程度かよ!もう半分は終わりか?!」

これは挑発でも何でもなく、間違いなく半数がやられた。

会場はいきなりの上級呪文にどよめいた。

「おい、あいつ上級の中でもなかなかに強いの出すじゃねえか、、。」

「私もまだ習得でできないのに、あの年で、、。」

どよめいていたのは、特別席もだった。

「へえ、あれが火炎の、、」

「ええ、誰でも習得できる五業の魔法だからこそ、素晴らしさが現れるのですね。」

「欲しいなあ、強いなぁ。」

そう会話していたのは、ギルドランキング4位、『ホワイトアイ』のリーダー、サブリーダーである。

「リーダーより強いのでは?」

「レイナちゃん、冗談よしてよー」

「冗談ではないですよ」

はいはい、とリーダー、アース・レバルは軽く返事をした。


「もういっちょ、もっと派手なの行くぜ!」

キルクは術式を組み立てた。その魔法陣の形から、先程より凄まじいのが来るのは目に見えていた。

「『オーバーアーツ』ッ!」

突如、魔法陣から大量の炎が飛び出し、空中にとどまった。

「『槍-ランス-』、『獄雨-ヘルレイン-』ッ!」

炎が無数の槍に形を変え、雨あられと降り注いだ。

もはや逃げ場は無かった。他に争っていた連中も巻き込み、コロシアムはボロボロになった。

「俺の勝ちだな、揃いも揃って弱いなぁ?」

"出たァ、ヘルレイン!広範囲に大ダメージを与えるキルクの得意技だァァァァ!もはや、コロシアムに

立っているものなどォ、、、、、?!!"

コロシアムのざわつきは、違ったざわつきに忽然と変わった。

コロシアムに立っている者がいたのだ。一人。


「やっと出たか。魔力0の男。」

総裁の目はより輝いた。


"いたぞォ!一人いるぞォ!あのヘルレインを食らってまだ立っているやつがァァッ!"


「痛てて、よいしょ。」

コロシアムの瓦礫の中から、一人の男が這い出した。武器はなく、素手。何より特出しているのは、魔力が0ということだ。この世に生まれし者は全て魔力を持ってして産まれる。まず0などあり得ないのだ。審査員も最初は逆に驚いたし、予選で落ちるだろうと思われた。だが、その男は勝ち上がった。

今と同じ状況で。

「うおぉ、みんなやられたか。すごいなあんた。」

「よく立てたな。噂には聞いてるぞ。魔力が0なんだってなぁ。なぁ、質問させてくれ。」

キルクはすっと向きを変え、その男の方を向いた。

「フィム・ランドロス、てめえはなんで傷1つ無えんだ。」

フィムと呼ばれたその男は、立ち上がり瓦礫の塵を払った。一息つき、キルクの方を向いた。

「わからん。頑張った。」

自信満々に、そう告げた。その顔はふざけている様子もなく、真面目に答えていた。会場のどよめきは少し収まりつつあった。

「なるほど、、、つまり、『体術』、か。」

「うん、そういうやつだ。」


「やはり、体術か。」

特別席でも会話が進んでいた。

「まあ、魔力0なら、体術しかあり得んやろなあ。」

'7位'の男はストローを噛みながら答えた。

「あのー、、、体術ってなんですか?」

紅茶を飲んでいたアースは吹き出した。

「おまっ、体術もわからんのに、よくもまあ政府軍の隊長になれたな、、、」

「えへっ、勢いで!」

そう答えたのは政府軍ハルルディア支部第二軍隊長

ラルフ・ラクズリーである。最近なりたての隊長だ。アースはこぼした紅茶を拭きながら、ラルフに話を続けた。

「俺らは、魔法を使うときに自身の魔力と、空気中に漂う"魔粒子"ってやつを使う。魔力を消費して魔粒子を形作る。これは知ってるだろ?」

「あー、、はい!」

「知らんやつやん。」

「知ってますもん!」

'7位'の挑発にのったラルフをみて、アースはため息をついた。

「リックも挑発するな、二人とも落ち着け。」

「ちぇッ」

「むー!」

「さ、話を続けるぞ。ここからが本題なんだから。」

アースは紅茶を注ぎ直し、拭き終わったタオルをテーブルに置いて体を向き直した。

「で、体術ってのは、魔力を消費しねえんだ。使うのは魔粒子のみ。実は魔粒子も微量ながらに魔力を持っている。そこをうまいこと使うんだ。魔粒子を様々な方法を用いて組み立て、1つの無属性魔法を構築する。応用も効くが、これを習得するのはなかなかに難しい。だから、フィムといったか、彼は天才と言ってもいいかもしれないな。」

ほぇ、、、ラルフは心底感心しながら下で激闘を繰り広げている二人に目を向けた。その目に映ったのは、魔力を使わずにキルクと互角に戦うフィムの姿だった。




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