第124話 北高祭2日目 渡り廊下を挟んで

「主任、演奏が終わるまで待ちましょう」

「なぜ?」

「私が許可を出した以上、あの者達に非は無いということです」

「知らなければおとがめ無し、それは通用しませんよ。それに同好会をやる以上は当然にルールを知っていないといけません」

「それはわかります。ですが、せめて終わるまでは…」

「だめです」


 ちっ、この石頭め。仕方ない。


「う」


 渡り廊下を目前に学年主任の動きが止まった。もちろん真知子に首根っこを掴まれたからだ。


 さて、動きを封じたのはいいが、この後どうしよう?首を離すと動き出すから演奏が終わるまでこのままにするか…ここに生徒会長が現れたら片手がふさがっている私が不利になるが、やむを得まい。


 ∝∝∝ ∝ ∝∝∝∝


「会長、どちらへ?」


 なんてことなの?思った通り風紀委員長がついてきた。


「お花を摘みに行くと言いましたよ」

「トイレはあっちです」

「こっちにも有りますよ」

「それは不合理だ。近くに行くのが合理的でしょう」

「じゃあ着いてきますか?ストーカーですか?覗きたいんですか?痴漢ですか?」

「いや、俺は渡り廊下に行きます」

「生徒会室で会議の続きを…」

「事件は現場で起きてるんだ、会議室じゃ無…」

「ちっ」


 渡り廊下を目前に風紀委員長の動きが止まった。もちろん会長に首根っこを掴まれたからだ。


 さて、動きを封じたのはいいが、この後どうしよう?首を離すと動き出すから演奏が終わるまでこのままにするか…ここに宮前先生が現れたら片手がふさがっている私が不利になるが、やむを得ない。


 ∝∝∝ ∝∝ ∝∝ ∝


 剣谷さんのおかげでライブは順調だ。幅がそれほど広くない廊下なのに、観客はいくつかのグループに分けられ、ちゃんと人が通り抜けられる通路が確保されている。


「みこちゃ~ん」「泉ちゃーんっ」「亮くん!」と、昨日よりも声援が飛んでいる。


「大成功だね~、美咲もいつの日かこの演奏で歌えたらいいなあ」

「うん、そうだね…」


 それはそう思う。歌うことに前向きになれたのは、この同好会のおかげ、皆のおかげ。ありがたい。

 なんだけど…今はそれよりも生徒会や先生がライブを止めさせに来ないのが気になる。真知子先生も見にきてないし、なんかおかしい。


 混乱はしてないけど音や声援は職員室や生徒会室にも聞こえているはず。もしかして真知子先生が戦ってるの?


「宮子、お願いがあるの。真知子先生の様子を見てきてくれない?ライブを見にきて欲しいから」

「うん、わかった~」


 ∝∝ ∝∝∝ ∝ ∝∝


 さて、まずは職員室に行ってみよう。


 宮子が渡り廊下を抜けて職員室側の校舎に行くと真知子が学年主任の首根っこを掴み動けなくしていた。


「あ、先生!やっぱり能力者?能力者なんですよね!」

「お、宮子か。ライブ順調そうだな」

「はい!剣谷さんの仕切りが抜群…」


 あ、しまった。学年主任に聞かれてしまうとマズいよね。


「いや、大丈夫だ。多分聞こえて無いぞ」


 間違いなし、能力者だ。私が誰かの首根っこを掴んでも何も起きない。


「宮子、頼みがある。渡り廊下の反対側に生徒会長が居るはずだ。様子を見てきてくれ」

「はい!行ってきま~す」


 親衛隊のモブ達よりも私のほうが役に立つと言うことだね。


 渡り廊下の反対側に向かう。途中で美咲に報告。


「真知子先生ちゃんとライブを聴いてるよ~」

「え、ホント?!」

「うん、心配ご無用!」


 そのまま渡り廊下を抜けて角を曲がると生徒会長が居た。

 首根っこを掴まれて動きを止めているのは風紀委員長だ。


「会長、何をされているんですか?」

「君は合奏同好会の一味、安井宮子だな。見ての通りトイレについてこようとした風紀委員長を封じ込めたところだ」

「え?!会長のトイレを?スケベ変態エロ痴漢ですね~」


 きっとそんな事は無いんだろうけど話を合わしとこう。


「会長も能力者なんですか?」

「違うよ…会長?他は誰が…いや、駆け引きは面倒だ。宮前先生も誰かの動きを止めているのか?」


 ここはどう答えるのが正解かな~。一番楽しくなる答えは…。


「はい、渡り廊下の向こう側で学年主任を確保してました!」


 それを聞くと生徒会長の表情が引き締まった。


「向こうもタイマン張るつもりだね。あたいは負けないよ」


 えーっと生徒会長、あたいって一人称はあたいの物だよ。

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