第123話 北高祭2日目 いざ渡り廊下へ

「あ、電子ピアノだ」

「ここでライブやるのかな?」


 前日の部室ライブが好評だったので、アフタヌーン・スリーパーズは注目されていた。

 ギターを持った亮たちメンバーが到着するとたちまち人だかりが出来た。


「予想以上だね~」

「宮子、呑気なこと言ってる場合じゃないよ」


 あたしは取り敢えず自撮り棒を伸ばして撮影を始めた。

 でもこれはマズい。渡り廊下は通行出来ないくらいに混雑している。


 親衛隊のモブたちが演奏スペースに人が入らないように押しとどめているけど多勢に無勢、危険な状態になってきた。その時、


「演奏を聴きたかったら静かにしろっ、それから自分の前に居る人を押すなっ、このままだと演奏は中止だ」


 剣谷さんがドスの利いた凄みのある声で言うと水を打ったように静かになった。人だかりを整理して通路まで確保し、要所要所に親衛隊を配置した。


「誰あれ?なんかヤバそうな人だ」

「うん、逆らわないほうが良さそう」


 そりゃそうだ、校内に急に現れた見ず知らずの大人が凄みながら場を仕切りだしたら引くよね。でも流石さすがだ、この場を統率の取れた場所に変えてくれた。


「単なる邪魔な人じゃなかったね~」

「うん、手慣れてるね」

「騒ぎを聞きつけて生徒会が飛んでくるかと思ったよ~」


 確かに。でも腕章を巻いた生徒会は居ない。別の場所を巡回してるのかな。


「さあ、アフタヌーン・スリーパーズの演奏を聴いてくれ!」


 剣谷さんの合図で演奏が始まった。アンプやマイクは使ってないけど、渡り廊下に反響した音や歓声が響き渡る。


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 職員室にもその音は響いている。


「これは…何事ですか??」

「どうやら渡り廊下で演奏してるようですな」

「合奏同好会?宮前先生が顧問ですよね?許可取ってるんですか?どうなんですか宮前先生?」

「あぁ…許可?しましたよ」

「許可した?先生が許可しても生徒会や実行委の許可は?」

「えーっと、初めての顧問だから難しい事はわかんな~い…ですね。生徒会や実行委の許可が必要ってことですか?」

「職員会議でその話は出たはずですよ…そうか、宮前先生は職員会議サボり倒してますよね」

「サボってるとは人聞きが悪いですなあ。職員会議よりも現場で生徒と向き合ってるんですよ。生徒は会議室に居るんじゃない現場に居るんだっ」


 真知子はこぶしを握りながら熱弁した。


「許可を得ていないなら問題ですな。止めさせましょう。宮前先生も来てください」


 真知子は学年主任と共に職員室を出た。生徒会長と1対1で戦う為に、まずは主任を片付けよう、そう考えながら…。


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 生徒会室にもその音が響いている。


「会長!奴らはやっぱり校内ライブを始めました。すぐに行きましょうっ」

「行ってどうするのか、まずは方針を決めよう」


 風紀委員長が語気を荒げて言ったが、宮前生徒会長は冷静に答えた。


「はあ?いやいや会長、早く行かないとライブ終わっちゃいますよ」

「風紀委員長、もしかしてライブを聴きたいの?」

「え?会長、何言ってるんですか?まさかそんな」

「彼らの演奏は素晴らしいから行ってきても良いよ」

「行きませんっ」


 会長は内心ニヤリとしていた。風紀委員長は単純で助かる。でもここに足止めしておくのは良いとしても、宮前先生と1対1で戦う為に私だけは渡り廊下に行かないといけない。こういうときは、あれだ。


「ちょっとお花を摘みに行ってきます。会議を続けててくださいね」


 会長はひとり生徒会室を出た。もし風紀委員長が来たら、悪いけど先に片付けよう、そう考えながら…。

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