第125話 北高祭2日目 宮子、会長に従う

「でも会長、風紀委員長はライブをめさせたいんですよね?それは生徒会の意向ではないんですか?風紀委員長の動きを封じ込めて、会長はどうしたいんですか?」


 首根っこを掴まれた風紀委員長を見ると、呼吸はしているけど他は全く動かない。


「宮前先生と勝負したいだけですよ。今なら観客も大勢居るし、その目の前で私が勝てば、あの宮前先生を倒した生徒会長として北高生徒会史にこの名を残し、さらに今よりも生徒会の権力が強固なものになるでしょう。だからライブはこのままやってもらって、終わったらすぐに私の出番です」

「生徒思いの良い先生なのにな~」

「私も生徒思いの良い生徒会長ですよ。ですよね?」


 会長はニコッと笑ったけど、目が笑ってない。面倒くさそうなので宮前先生の所に戻ろう。


「宮前先生に伝えておくことは有りますか?」

「そうですね…タイミングを間違わないようにと伝えてください」


 私はまた渡り廊下の反対側に向かった。もちろん途中で美咲に報告。


「生徒会長もライブ聴いてるよ~、最後まで演奏して良いって」

「え?ホントに??良かった!」

「ライブはあとどのくらいで終わるの?」

「アンコールで2回目の2曲目だから、もうすぐ終われるかな」

「わかった~」


 宮前先生はまだ学年主任の首根っこを掴んでいた。指が痛くならないのかなあ。学年主任は呼吸はしてるけど、さっきから全く動いてない。絶対これは宮前一族の能力だよ。


「お、宮子、生徒会長はどうしてた?」

「風紀委員長の首根っこを掴んで動きをめてました。ライブは最後までどうぞってことでした。それからやっぱりそれって能力ですよね?宮前一族は能力者一族なんですか?」

「まだ報告の途中だろ?ライブが終わったらどうすると言っていた?」


 話をはぐらかそうとするとこが怪しい。能力者だったら良いのにな~。


「観客の前で先生を完膚かんぷ無きまでに叩きのめしてやるから、戦いに出てくるタイミングを間違えんなって言ってました」

「ほう、なかなか挑発的だな。その挑発を受けてやろう。観客の前で倒してその威厳を地に落としてやる。すまんが会長にそう伝えて来てくれ」


 え~、能力者の話を聞きたいのに。うまくはぐらかされてる。再び渡り廊下を反対側へ向かう。美咲が怪訝な顔で聞いてきた。


「宮子、さっきからどうしたの?何やってるの?」

「うーん…伝書鳩」

「え?鳩??」


 そのまま渡り廊下を通り抜ける。風紀委員長もさっきから全く動いてない。


「会長、宮前先生から伝言です。みんなの前で床に顔を押し付けてやる、それが嫌ならとっとと帰んな、だそうです」


 先生は「地に落とす」って言ってたから間違ったことは言ってないよね、うん。


「ふん、安い挑発ですね。私がそんな挑発に乗るとでも…」

「ぐゅ」


 風紀委員長が変な声を出した。首根っこを掴む力が強くなってる。わかりやすい人だな~。


「ひとつ頼まれてくれる?」


 ひとつ?さっき頼まれて伝言しに行ったのはノーカウント?まあいいや。


「私のリュックからゴングを出して」


 ゴング?会長の背中のリュックを開けた。あ、何これ、ホントにゴングが入ってる。実物は初めて見た。プロレスとかで試合開始と終了を告げるヤツだ。生徒会の備品番号の書かれたシールが貼ってある。なんでゴングが備品なの?楽しすぎる~。


「本物を始めて見ました~」

「そうだよね!じゃあ、それ鳴らしてみたくない?」

「鳴らしてみたいです!」


 これはホントに鳴らしてみたい。こんなチャンスを逃す手はないよ。


「リュックの中にハンマーも入ってるのよ」


 木製のハンマーが入っていた。


「まだ鳴らしちゃダメよ。ライブが終わったら渡り廊下の真ん中でこれを鳴らしてね。そしたらどうなるか、わかるよね?」

「試合開始!ですね。でも首根っこを離したら風紀委員長が動き出すんじゃ無いですか?」

「大丈夫、いつもより強く掴んでるからダメージが残ってしばらくしゃがみ込むことになるわ。掴まれてる間の記憶は残らないから大丈夫よ」


 つまり記憶を司る脳の部位、海馬に影響を与えているのね。やっぱり…


「能力ですね!能力者なんですね!」


「ライブが終わるわ。それを持って渡り廊下へ!」


 またはぐらかされた。生徒会長は私より上手うわてだな。ゴングが鳴らせるのは楽しみだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る