第111話 北高祭2日目朝 ブラック剣谷

「では私は職員会議が始まるから戻る。剣谷つるぎだにさん、私が居ない間よろしく頼む」

「承知しました。任せて下さい!」


 先生は戻って行った。


「ふっ」


 ふっ?


「さあお前ら、気合い入れろ、いくさだ」


 えええ?キャラが急変した。別人格?どういうこと?


「まずは泉ちゃん親衛隊のお前とお前っ」


 適当に2人を指差した。


「電子ピアノを運ぶ係に任命する。喜べ、お嬢の荷物を運べるんだぞ~」

「うっしゃ~」


 大喜びする2人。お役に立てて嬉しいですって感じだ。


き出しで運んだら目立つから何かで包んで運べ、そうだな…」


 剣谷さんは窓際に椅子を運び、その上に立ってカーテンを外した。


「これで包んで運べ。ほんでそこのお前、スタンドを運べ。これは1人で運べるだろ」

「っしゃ~」


 雑だ。この人は真知子先生以上に雑だ。

 先生は雑だけど、あたしたちのことをちゃんと考えてくれている。この人はどうなんだろう。


「俺たちは?」


 泉ちゃん親衛隊の残り2人が不満そうだ。


「お前らとみこさん親衛隊の…お前とお前」


 4人が指名された。


「今から私の密偵みっていとして校内探索に出ろ。いいか、覆面調査員生徒会の犬もうろついてる、構えて気取けどられるな。何かあったらスマホでメッセージを送れ」


 ん?なんか急に時代劇みたいな喋り方になった。


「わかりました!」

「皆さん、頑張ってくださいね!」

「はいっ!」


 お嬢が自分の親衛隊にウィンクと投げキッスを送り、チラとまどろみさんを見た。


「あ、ええと、みんな頑張ってくれ」


 さすがに投げキッスもウィンクもしなかった。いや亮も居るし、まどろみさんがそんな事したらびっくりだけどね。それでもみこさん親衛隊の2人は喜んだ。


「頑張ります!」


 密偵たちはスッと校内探索に散って行った。なんとも凄い機動力だ。


「さて、みこさん親衛隊の残り2人は不測の事態に備えて待機だ。あとは宮子と言ったな、宮子は策士だと美咲が言ってたと香風が言ってたぞ」


 ややこしいけど、つまりあたしが策士だと言ってたのを香風から聞いたと言うことね。


「うち?策士じゃないですよ~」

「ふん、まあいいや、今は漫研に戻っとけ。状況は常にメッセージで確認しといてくれ」

「はーい…」


 宮子はここに残りたがると思ったのに、素直に漫研に戻るみたい。


「さてと、コーヒーでも飲むか。言っておくがコーヒー豆は昨日自分で買ってきたやつだ。余った豆は先生に渡して帰るつもりだ」


 剣谷さんは暗幕の後ろに入って行った。


「美咲、ちょっと」


 漫研に戻る宮子に呼ばれあたしは廊下に出た。


「これ」


宮子

〔剣谷さんて何者?〕


香風

〔マネージャーよ〕

〔ってことを聞きたいんじゃないよね〕

〔ライブを成功させるためなら何でもやらかす〕

〔敏腕マネージャーよ〕


宮子

〔ライブの成功が第一目標なんだね〕


香風

〔だから適材適所だと思うわ、ただ…〕


宮子

〔ただ?〕


香風

〔時代劇口調になったら〕


宮子

〔なったら?〕


「ここでメッセージが途切れたのよ、ライブの練習が始まったかな~」

「時代劇口調になったら何だろう…」

「なんだろね、面白そう!」


 面白かったら良いんだけど、面倒ごとはこれ以上増えないで欲しいなあ。

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