第110話 北高祭2日目朝 その名は剣谷

「それでは改めましてアニカのマネージャーで剣谷つるぎだにと申します。本日はプロデューサー代理として大活躍させていただきます。代理とは言えプロデューサーなので偉い人です。あがめてたてまつってください。みんな!よろしくね」


『よろしくお願いします…』


 言葉遣いは丁寧だけど、どこか真知子先生に似ていると思うのは気のせいだろうか。


「いや待て、この同好会の顧問は私だぞ!」

「承知しております。あなた様は最高責任者です。が、しかし、ずっとここに居るわけにはいかないですよね?」

「いやまあそうだが…」

「具体的にはこのあと職員会議、そして定期的に校内見回り、来賓対応…」

「なぜ知っている?」

「私はなんでもお見通しです」


 もしかするとこの人は夜中よなかに職員室に侵入して真知子先生の予定表を見たのかも…いや、まさかね。


「大活躍したいんですけど、ダメでしょうか?」

「いや…そうだな、まあ良いだろう」

「それでは時間が無いので早速さっそく、この時間はまだ一般客の入場前なので私が校内を彷徨うろつくと目立ちます。今のところはここで作戦を立て指示を出します」

「ちょっと待ってください。初対面の人にいきなり指図さしずされるなんて…あなたのことを信用出来るかどうか分かりません」


 確かにお嬢の言う通りだ。先生が良いと言ったけど、香風のマネージャーだからってすぐに信用して良いのかどうか分からない。


「あら、丁寧な話し方と大きいお胸、あなたはお嬢…小清水泉さんですね。こちらに来てください」


 剣谷つるぎだにさんはお嬢を抱き締めた。


 剣谷さんの胸に顔をうずめ、初めはアウアウと抵抗していたお嬢だったけど、すぐにフニャフニャと力が抜けた。


「おお~っ」


 お嬢の親衛隊が歓声を上げ、スマホで写真を撮ろうとした。


「こら!貴様ら、北高祭中の携帯使用は禁止だぞ。私が撮っておいてやるから後で売ってやる、1枚5千円な」

「おーっ!」


 売るの?5千円?買うの?買う気なの?!


「お嬢、大丈夫?」


 腑抜ふぬけになったお嬢は、ハッと我に返った。


「ふふぁ~、皆さん、大丈夫です!この人は信用出来ます」


 チラッと先生を見た。


「だってお胸が柔らかいんですもの」

「なんだと!」



「さて、今の話でも分かるように、生徒は携帯の使用が禁止されています。携帯を使ってる者が居たら、生徒会の許可を得て連絡を取りあっている生徒会覆面調査員の可能性が有ります」


 覆面調査員なんてホントに居るのかな…。


「そこで我々もそれに対抗すべく、真知子先生の権限で携帯の使用を許可して貰います」


 そう言うと剣谷さんは鞄から用紙を取り出した。


「携帯使用許可証です」

「おい、お前その用紙をどこから持ってきた?」

「細かいことは言いっこ無し!」


 あたしは確信した。ぜったい職員室に侵入したんだ~。


「各自記入したら先生に渡して下さい。先生は判子をポンっと押して下さい」


 そう言うと先生の前に机を置いた。


「さあ、判子」

「お、おう」


 先生は用紙を受け取り、あたしたちと親衛隊の許可証に判子をポンっと押した。


「そして北高祭限定で対生徒会用のメッセージグループを作りましたので参加してください。香風は既に参加しています。さ、親衛隊の皆さんも」

『うおーっ、泉ちゃんと同じグループに参加だ~』

『おおーっ、みこさんと同じグループに参加だ~』


 声を揃える親衛隊。統制が取れているなあ。ちょっと怖いけど。


「では各自、何か気になることが有ればどんな些細ささいなことでも連絡をしてください。即座に状況分析をして指示を出します」


 大丈夫かな、大袈裟おおげさなことになってきた。

 その時、扉がバーンと開いた。


「ちょーっと待った~」

「ひぃっ」


 まさか生徒会?!と思ったら宮子だった。


「話は全部聞かせてもらったよ~」

「宮子、また覗いてたの?」

「人聞きが悪いな~。覆面調査員が立ち聞きしてないか見張ってたのよ。警戒心無さ過ぎだよ~」


 つかつかと剣谷さんのほうに歩み寄り、


「私もグループメッセージに参加します!こんな面白い話、黙って見てるだけとか有り得ないよ~」


 策士宮子も参加してくれた。ますますややこしくなりそうだけど心強い。でも漫研は大丈夫なの?

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