第98話 待機

 次の日の放課後。


 まどろみさんと亮はいつものように先に教室を出た。いつも先生に鍵を貰って先に部室を開けておいてくれる。


 あたしはいつものように、教室でしばらく宮子とお嬢と喋る。今日は香風このかはレッスンで来ない。


「さあ、そろそろ部室に行こう~」

「そだね、じゃあまた帰りにね」

「え、違うよ。合奏同好会のほうだよ~」

「なんで?」

「だって、まどろみさんと亮が何か話してるかも知れないから覗かなきゃ」

「えー、それは良くないよ。2人の大事な話を盗み聞きするなんて…」

「そうだけど、きっと真知子先生も覗いてるよ!行こう」


 あたしは覗き見には反対なんだけど、宮子に押し切られた。お嬢もうなずいてる。興味津々なんだ。


「あれ?先生居ないな~」


 部室の前には誰も居なかった。宮子が扉に隙間を開けようとすると、鍵がかかったままだ。


「来てない…なんでだろ?残念、さすがに漫研行ってくるよ。どうなったか帰りに教えてね~」


 あたしとお嬢は職員室に鍵を貰いに行った。


「お、珍しいな。君たちが鍵当番か?」

「いえ、まどろみさんと亮は来ませんでしたか?」

「いや、来てないぞ…なるほど、昨日の続きか、どこかで話してるんだろう。先に部室に行っとけ」


 鍵を受け取り職員室を出た。


「どこで話してるんだろう?」

「私、思い当たる場所があります!」


 それは以前、亮が微睡びすいに学ランをかけてあげた、グラウンドへ向かうスロープ横に生えているプラタナスの下、2人はそこに居た。


「やっぱりここでした。でもここだと近付けないですね」

「部室だと覗かれるからここにしたのかもね」


 絶対そうだ。覗き見される部室って困ったもんだなあ。


流石さすがの私でもこれ以上は近付けんな」

「せ、先生」


 流石だ。気配を消していつの間にか背後を取られていた。


「先に部室に行けと言っただろう。そっとしといてやろう」


 いや、先生がそれを言うの?これ以上近付けないからだよね。


「じゃあ部室に行きましょう、先生も」

「あ?いや、先に行っとけ」

「ダメです。先生も行きましょう」


 お嬢は先生の手を引っ張って、あたしたちは部室に行った。


「私は職員会議があるんだが」

「ダメです。サボってまどろみさん達を見に行くに決まってます。先生の考えてることなんてお見通しです!」

「ちぇっ」


 子供か。


 先生はコーヒーを煎れ始めた。お嬢は紅茶を、あたしは番茶を入れる。


「あ、そうだ、北高際までに一度、部室に何人か客を呼んで演奏してみろ」

「え?どうしてですか?」

「小清水以外は人前で演奏したり歌ったことが無いだろ。練習だ」

「そうですね、人前で演奏するのは練習と全然違います。私も初めて発表会に出たとき緊張したし、お客さんの目が怖くて失敗しました」


 そんな話をして待機していると、扉が開き、まどろみさんと亮が入ってきた。


 どうなったの?付き合うの?付き合わないの?

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