第26話 電子ピアノ

 同好会が終わり、電子ピアノを取りに行くため亮と微睡びすいはバスで帰った。


「今日はいっぱい寝たし大丈夫だから」

「授業中、休み時間、弁当の後、同好会、よく寝てたな」

「昨日みたいな迷惑かけたくないし、もっと喋りたい」


 今日もバスは座れない。微睡はしっかり吊革に捕まった。カーブでバスが揺れ亮と身体が触れる度に鼓動が早まる。


 山裾やますそでバスを降り東山の家に向かう。

 

「これなんだけど」


 玄関まで運ばれていた本体は思っていたより大きく重かった。

 紙袋に入れられた電源コードやペダルを微睡が持ち、東山に気泡緩衝材(プチプチ)で包んでもらった本体を亮が持った。


「重い。どうやって学校まで運ぼう。いやそれより家まで運ぶのも大変だな」

「うん…大丈夫?鞄も持つよ。休憩を挟みながら行こう」


 電車の駅に向かう2人。2駅乗れば昨日バスを降りた場所まで行ける。

 背後から近付いてきた車がクラクションを鳴らした。


「おーい何やってんだ」


 真知子先生だ。


「先生こそ何やってるんですか?家近いんですか?」

「いや、ホームセンターで買い物してから飯を食ってた。その重そうなのはなんだ?」

「借り物の電子ピアノです」

「なに?キーボードはどうするんだ?まさか私に持って帰れと言うんじゃないだろうな。せっかく友達の荷物が片付い…」

「キーボードも使います!」


 亮はあわてて制した。

 そうだよな、せっかく元カレの荷物が片付いたんだから返して欲しく無いよな。


「それは部室に置くのか?」

「はい」

「そうか、車に載せろ。今から学校に戻るから持って行ってやろう」

「それでは悪いので我々も行きます」

「下校時間を過ぎてるし生徒を連れ戻る訳にはいかんよ。ついでだから部室まで運んどいてやる」

「ついで…?」


 トランクに電子ピアノを入れるとき、車内を見るとアウトドア用簡易ベッドと書かれた箱が有った。

 なるほど、ついでだなあ。


「ではお願いします。車の中に置いといてくだされば、明日我々で運びます」

「うむ、適当にしとくよ。気をつけて帰れよ」


 真知子先生は去って行った。


「重かったから助かったね」

「助かった~、しかし…」


 朝と放課後のメッセージもだが、今もあまりにもタイミングが良すぎる。怖っ。


「どうした?亮?」

「いや、何でもない。腹減った、そこのスーパーのレストスペースでなんか食べていかない?」

「うん!」


 微睡はレストスペース(イートイン)が初めてだった。


「ここは店で買った物を食べて良い場所なのか?」

「そうだよ、何食べる?俺はおにぎり」

「私はパンにするよ」


 飲み物も買ってレストスペースに座った。


「真知子先生、生徒会に強気だけど大丈夫かな」

「生徒会にもだけど学校にも強気だよな。あの校内放送は面白すぎる」

「うん…大丈夫かな、同好会が無くなったら嫌だ。せっかく出来た友達と居場所だから」

「大丈夫だよ、生徒会が納得すれば良いんだし、先生には秘策があるようだし…とにかくしっかり練習しよう」

「うん!」


 スーパー近くの駅から電車に乗った。仕事帰りの人々とは逆方向。いてる電車に並んで座る。

 喋るときの緊張感は減ってきた。でも今までに経験したこと無い幸福感や高揚感が増して、微睡の戸惑いは消えない。


 夜遅く、メッセージのグループに泉も参加したので亮はメッセージを送った。


〔電子ピアノ受け取った〕

〔色々あって先生が学校に運んでくれた〕


〔ありがとうございます。明日昼休みに確認します〕

〔まどろみさんもありがとうございます〕


まどろみ子

〔明日先生にもお礼を〕


〔はい!〕

〔練習する曲はどうしますか?各自考えて持ち寄り明日決めるというのはどうでしょう〕


まどろみ子

〔そうしよう。決まったらすぐに練習開始でどう?〕


美咲

〔部長に賛成!〕


まどろみ子

〔じゃあ今日はこのへんで、おやすみなさい〕

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