第27話 楽曲決定

 昼休み、泉は微睡に鍵を開けてもらい部室に入った。

 梱包されたまま机の上に置かれている電子ピアノを気泡緩衝材(プチプチ)から丁寧に取り出し、コンセントとペダルをつなぎスイッチを入れた。


「キーボードより簡単です。音がすぐ出ました。グランドピアノに近い音が出ますが…細かい設定をしたらもっと良い音が出るんでしょうか。説明書をスマホで探すより聞いたほうが早そうですね…。まどろみさん、ありがとうございました!もう鍵をかけておいてください!」


 泉は部室を飛び出し教室に向かった。


 教室を出ようとしている東山が、タイミング悪く美咲や宮子たちの横を通っているところだった。


「美咲さん、その男を捕まえてください!」

「ほいよ、えいっ」

「げっ、痛いっ、やめろよっ」


 東山の話によると、亮たちが取りに来た時、グランドピアノに近い音が出るようにしといてくれと言われたので既に設定してあるということだった。

 頼むから余計なボタンを押して「音色が変わった元に戻せ」と俺を捕まえに来ないでくれ、と言われた。


「別売りで専用スタンドもあるけど、今持ってるキーボードのスタンドで代用出来るならわざわざ買わなくていいと思う。さあ痛いから離せよっ」

「お嬢、もう離していい?」

「はい!東山さん、ありがとうございました。大事に使わせていただきます」


 泉がお礼を言い終わらないうちに東山は逃げるように教室から出て行った。


 その様子を見ていた亮は思った。

 可哀想に、きっとまた捕まえられることだろう。


 入れ替わりで教室に戻って来た微睡は亮に小声で、


「簡易ベッドが置いてあった。顧問専用と紙が貼ってあった」

「やっぱりかあ」


 放課後。

 部室に集まりそれぞれの選曲を見せ合った。微睡と美咲は楽器をやっていないので、最近の流行曲を、亮と泉はギターやピアノの譜面が手に入り、かつ、合わせやすい曲を選んでいた。その中に同じ選曲があった。


「これにしよう。譜面をダウンロードしたら、すぐ練習を始められる」

「そうですね、これに決まりです」


「じゃあ急ぐから譜面の印刷を先生に頼んでみる」


 微睡はダウンロードする譜面のURLを真知子先生に送った。


まどろみ子

〔この譜面をすぐに印刷できますか?〕


まいっ○んぐ

〔すぐ来たまえ〕


「行って来る」

「俺はギターのチューニングしとくよ」

「私は電子ピアノに慣れておきたいので少し練習します」

「あたしはこのプチプチを潰す」

『んん?』


 美咲は電子ピアノを包んでいたプチプチをひとつずつ潰し始めた。


「お、微睡、こっちだ」


 職員室に行くと真知子先生は共用パソコンの前に座っていた。


「これだな?歌詞付きのギター用譜面を3部とピアノ用は1部でいいか」

「いえ、ギター用は1部で、あとはコピーすれば…」

「コピー?駄目だよ。著作権の問題がある。学校の同好会である以上コピーを認めるわけにはいかんよ。4部購入だ。取り敢えず500円くらいだが、急ぎだからクレカ払いで立て替えといてやる。5月に雀の涙ほどの同好会費が配分されるからそこから返してくれ」


 雑なのかきっちりしてるのか、よくわからない先生だ。


「先生、張り切ってますね」

「当たり前だ、あの部室を明け渡す気は無い」


 ジージーと音を立て譜面が印刷された。


「しっかり練習しろ、あとで見に行く」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る