第25話 ANJI

 放課後。


 美咲は宮子や他の友達と喋っている。亮は微睡びすいと先に部室に行くことにした。


「お、鍵か、ほれ。あとで部室行くからギター聴かせろ、美味しいコーヒーを飲ませてくれ」



「本当に部室でコーヒー飲むんだね」

「うん。部室見たら本気度がわかるよ」


 鍵を開け中に入ると、冷蔵庫とコーヒーメーカーが目に入った。


「これは本気だね」


まいっ○んぐ

〔部員以外には他言無用(笑)〕


 微酔のスマホにメッセージが届いた。


 朝もそうだったけど、なんでこんなにタイミングが良いんだ?ストーキングされてるみたいだ。怖っ。


「これが亮のギター?」

「うん!」

「1曲聴かせて」


 亮は「ANJI (※注)」を弾いた。

 微睡は亮の前に座り聴いた。なんだか幸せな時間。ずっと聴いていたい。顔が赤くなっていくのがわかる。


「いい曲だね」

「この曲弾きたくてギター始めたんだ」


 美咲と宮子が拍手しながら入ってきた。


「うまいじゃん」

「聴いてたのか」

さえぎったら悪いから外でね。動画撮ろうとしたんだけど宮子に止められた」

「だって扉の隙間から黙って撮ったら盗撮だよ~」

「あれ?宮子さんはなんでここに」

「漫研に正式入部するまではこっちも顔出していいよね、部長さん?」

「うん、大丈夫」


 美咲は冷蔵庫とコーヒーメーカーを見て、


「いつの間に。電気ポットも欲しいなぁ、私は日本茶派だから」


 真知子先生が入ってきた。


「入るぞー。…安井は部員じゃないな。このことは他言無用で頼むよ」


 そう言いながら真知子は冷蔵庫から水を出しコーヒーをてはじめた。部室にコーヒーの香りが広がる。


「さてと、1曲披露してくれ」


 亮はさっきとは違う曲を弾き始めた。美咲は動画を撮り始め、真知子は香りを楽しみながらコーヒーを飲んだ。


「うまいじゃないか。お、部長が寝ている、確かに私も心地よく寝れそうだ。職員室に居たら味わえない午後のひと時だな」


 真知子は満足気に言った。

 先生は寝に来るのが目的なのか?


「さて顧問からの指示だ」


 亮は微睡を起こそうとしたが、


「いや、起こさなくていい。奴は寝てるほうが記憶力が高いからな。さて、生徒会の確認が来週の金曜になった。一週間ほどではていにしているオリジナル曲作りは出来ないから、既存曲にしてもらうように話はつけた。楽曲を決めて練習しとけ。そこそこ形になってればいいと話はつけた。心配するな、私も立ち会うから大丈夫だ」


「1曲丸ごとですか?」

「うむ、イントロだけって訳にはいかんだろうな…Aメロまでで話をつけといてやる」


 泉が居ないので今日は楽曲を決められない。


「曲決めは明日するの?時間無いけど大丈夫?」

「夜、泉さんとメッセージで相談するよ」

「じゃあ、同好会のメッセージグループを作ろう」


 いつの間にか起きた微睡が言い、すぐにグループを作った。


「お嬢には招待を送っておく」


 微睡は亮と泉が個別にメッセージをするのが嫌だと思った。


 何だろうこの感覚。最近、今までに無かった感情が出てくる。


 自分でコントロール出来ないその感情に微睡は戸惑った。




※注 ANJIはサイモン&ガーファンクルのポール・サイモン氏の演奏で有名なギター曲。作曲者はデイビー・グレアム氏。



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