第15話 微睡みこ モノローグ

「よろしくお願いします」


 微睡びすいは申請書を生徒会に提出し、学校から少し離れた植物園の入り口にあるバス停に向かった。



 同好会か、中学の時は寝てばかりで部活にも入らなかったし、友達と呼べる人は居なかったなあ。

 こんな私に興味を持ってQRコードを読み取ってくれて本当にありがたいな。

 寝てしまっても近くまで来てしっかり耳に入るように話をしてくれてるし同好会の話も乗ってくれた。


 

 北山高校は山の中腹にあるが、さらに上の方にも別の高校があるため、帰り時間が少し遅くなると下校が重なりバスが混む。



 満員だ…座って寝たいんだけど。



 微睡びすいの眠気はピークに達していた。



 吊革を持って立ったまま寝るわけにはいかないな。かと言ってここのベンチで寝たら植物園帰りのお年寄りとか座りたい人の邪魔になる。植物園で少し休もう。どこかに座る場所があるだろう。1時間もしたらバスもいて座って帰れるかも知れない。



 微睡びすいは植物園に入った。新緑にはまだ早いこの季節は、日が傾き始めると肌寒い。園内は桜を見に来ていた人がちらほらと残っていたが、駐車場やバス停に向かい家路につくその姿は却って物悲しさを感じさせた。



 今まではひとりでも平気だったのに、今はひとりで居ることが凄く寂しくて凄く怖い。こんな感覚は初めてだ、ひとりはイヤだな。



 いつの間にか寝落ちしていたが、寒さで目が覚めると日も沈み、時折強い風が木々をざわめかす中、薄暗闇にひとりで座っていた。



 寒い。私はなんでひとりでるんだ。ひとりは怖い、帰らなきゃ。



 微睡びすいの目から涙が一筋流れた。



 そうだ、メッセージで話そう。



 鞄からスマホを取り出そうとした時、


『まどろみさ~ん』


 美咲と泉だった。


「美咲、お嬢…どうして」


「バスに乗れずに歩いて帰ってる子らがね、まどろみさんが植物園のほうに歩いていったって話してて。何度もメッセージ送ったけど反応無いし、寝てたら危ないと思って探しに来たんだよ」

「大丈夫?泣いてるの?」


 お嬢がギュッと抱き締めてくれた。


「今までと違くて、戸惑って…」

「そうだよね、今までと環境違うから不安になるよね、同好会の手続きとか任せっぱなしでごめん」

「私なんて環境が全然違いますよ、だって男子が居るんですよ男子が」



 違うんだそうじゃなくて、みんなの優しさに戸惑ってるんだ。もう孤独に戻りたくない。どれだけ嬉しいかを今はうまく言葉で表せないけど、いつかこの気持ちを伝えたい。

 


「眠気は収まった?」

「寒さで体力消耗した、寝る前よりも凄く眠い」

「お嬢、まどろみさん、顔を寄せて~、か~ら~の~ラブ・アンド…」

『ピース』

「あったかい」

「まどろみさん、ほっぺた冷え冷えだ、もうすぐ次のバス来るからバス停まで走るぞー」


 バス停に着くと、丁度バスが来た。美咲と泉も、この日はバスで帰ることにした。


「座れないね、じゃあまどろみさん、あたしらの間に立って。寝てもあたしとお嬢で両側をしっかり支えとくから安心しといていいよ」

「ぎゅうぎゅうとおしくらまんじゅうですね、温まりそうです!」

「ありがとう、でも寝ずにもっといっぱい喋っていたい」


 微睡びすいは、寝るよりも友達と話ながら下校する時間がとても貴重なものに感じていた。

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