第10話 男子です

 勝手に私が友達第2号ということにしている男子が、まどろみさんと話しています。自己紹介の時に声は聞きましたが、まどろみさんが誰かと直接会話している姿は初めて見ました。何を話しているのでしょうか。


 友達第2号の男子が私より先に他の女子と喋ってると思うとなんだかモヤモヤします。

 自意識過剰と言われるかも知れませんが、私のほうを見ながら話しているように思います。そう思ったら今度はドキドキしてきました。


 モヤモヤでドキドキって、女学館では感じたことの無い感覚です。


「この感じってなんでしょう?」


 昼休み、お弁当を食べながら美咲さんと宮子さんに聞いてみました。


「うん、それはね………」


 美咲さんは声をひそめて真顔で答えました。


「恋だよ」


「え、………いきなり男子に恋?!」


 顔が熱くなるのがわかります。真っ赤になっているかもしれません。


「はい、お嬢が恋に目覚めた瞬間の顔、撮るよ、ラブ・アンド…」

「ピース」


 うっかりピースしてしまいました。


「美咲~、からかったらダメだよ~、お嬢は男子に耐性が無いから、男子のこと考えただけで不安でモヤモヤしたりドキドキして赤くなったりするんだよ~」

「ごめんごめん、小中9年間女子だけの環境だったから男子居るだけでドキドキだよね」

「そ、そうなんです」

「少しずつ慣れないとだね、と言うことでお嬢、後ろ振り向いて」

「え?」


 振り向くと友達第2号の男子が立っていました。突然の接近に驚いて思わず悲鳴を上げてしまいました。


「きゃぁ」

「な、なんだよ」


 共学校で男子との会話デビューの第一声が「きゃぁ」、これはヘコみます。


「ごめんごめん、お嬢…小清水さんは女学館じょがっこから来たから、男子に耐性が無くてね、急に男子が来たからびっくりしたみたい、許してやって」

「女学館か、だからお嬢ってわけだ」

「小清水泉です。よろしくお願いします」

「俺は日之池亮…それでええっと」

「あたしは御前浜おまえはま美咲、ほんでこっちが…」

「安井宮子です、よろしく~」

「ほんで?用件はなになに?」

「ええと、まどろみさん…微睡びすいさんが同好会のことを決めたいから放課後集まろうって」

「日之池くんも同好会に興味有りなんだ。お嬢は残れる?ピアノレッスンあるの?」

「今日は大丈夫です」

「じゃあ決まり、宮子はどうする?」

「私は帰って明日の課題テストの勉強するよ~」


 ついに男子と会話ができました。緊張と興奮でクラクラします。モヤモヤでドキドキでクラクラの共学校デビューです。

 あ、そう言えば日之池さんにも外部進学の理由を聞かれませんでした。皆さん興味が無さそうです。

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