1999年8月15日
そして誕生日の夜、
「日本の我が息子が20歳を迎えました。彼の成長を心から喜んでおります」
代表して
俺は涙だけでなく鼻水まで垂らし、ただただ頭を下げっぱなしだった。その様子に
「――敬愛する北京の朋友たち、お父さん、お母さん。そして
割れんばかりの拍手が起こり、誰が教えたのか「ガンバレ!」という日本語が投げかけられた。フィクサーである
帰りのタクシーの中、
「なんてお礼をしたらいいか…」
その美しい鼻筋につぶやいたが、彼女は「姉は弟の成長を喜ぶものよ」と言っただけで視線は眠らぬ北京の雑踏を向いたままだった。
この恐ろしく回転の早い美人を乗りこなす男はまだ現れないようだが、
「97年のあなたの誕生日を思い出すと今でも笑いが止まらなくなってしまう!」
「いつか姉さんの誕生日にケーキをお返しするので楽しみにしていてください」
すると姉さんは瞬きを止め、こちらを真っ直ぐ見返してきた。
「そんなことしたら…」
「なんです?」
「東京まで行って殺すわ」
北京市国際友好協会らしからぬ、穏やかではない言葉が返ってきた。
「姉さんにだったらいつでも喜んで殺されますよ」
「――あなたは
午後、医科大近くの公園を歩いている時、
「何をバカなことを言っている!あの人は俺の姉だ。それに10歳以上も上なんだぞ!」
昨晩のタクシーの中での子ども扱いを思い出し、ややムキになって言い返した。
しかし
「…あの夜、
俺のハタチを祝うパーティー会場で、そんな女同士の暗闘があったとは知らなかった。
クリスマスもバレンタインも知らず、勉強ばかりしてきた
「やめてくれ。
「じゃあ、どんな人が好きなのよ!」
無理やり彼女の妄想を断ち切ろうとしたが、
「97年以来わたしはいつだってあなたの一番の友達になろうとしてきた!父が亡くなりそうになった時も、あなたからの励ましの手紙をいつも持ち歩いて辛くなったら何度も読み返した。昨日の誕生日会だって本当は
鈍い俺は、この時彼女の説明に重要な部分が欠けていることを知らなかった。
「――
北京を発つ前に行った
「ちゃんと彼女の気持ちにこたえてあげたんだろうな?」
ひつこい追求に俺は口を閉ざしたままだったが、まさかここに来る前に、
その問いに笑って答えないまま、列車は夕暮れの北京駅を出発した。
投げつけられた赤い包装紙の中には、北京天文台に行ったときに
<本当は二人だけであなたのお誕生日を過ごしたかった。プラネタリウムで手を握ってくれた時、このまま部屋が明るくならないでほしいと思った――>
列車は北へと向かう。
<逃亡者は北へと向かうものだ>というどこかの小説で読んだ言葉が浮かんで消えた。様々な未解決を残したまま、思い出の北京が遠ざかっていく。
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