第39話



「あれ? ちょっと待ってください。カメラがあって、来栖さん達が犯人だと分かっていたんですよね。それなら、どうして僕達に犯人を見つけさせようとしていたんですか?」


 忘れてしまいそうになっていたが、カメラがあるのが事実なら、色々とおかしなことがたくさんある。


「それに、飛知和さんが殺されるのを、防げたんじゃないですか……?」


 一番の問題はそこだ。

 鳳さんを殺したのが二人だと分かって、二人をマークしていただろう。

 それなのに、みすみすと殺させたというわけか。


「それに関しては、私から言うことはありませんわ。私はあくまで第三者という立場でしたから」


「でもっ」


「サンタ。今更、何を言っても仕方がないでしょ。もう全ては終わったことなんだからさ」


「そうだけどっ」


 緋郷が言っていることも分かるし、今更手遅れなんだというのは百も承知だ。

 でも、それでもわずかな可能性があったのならば、人が一人死ななくても良かった未来を選べたのではないか。

 その未来があったかもしれないと思うと、やるせない気持ちになってしまう。


「あらあら、随分と熱血なのね。もっと冷めた人だと思っていたのに」


 りんなお嬢様は、馬鹿にした様子で僕を見る。

 しかし、その手が少し震えているのが、一瞬だけ分かった。

 彼女も、本気で二人を死なせたかったわけでは無いのだろう。

 そう思いたい。

 さすがにこの世の中は、悪人ばかりでは無いと。


「何で緋郷はカメラがあると分かったの?」


「ん?」


「どこかで、分かったタイミングがあったんだろう?」


「ああ。どうしたって、見ていなきゃ分からないような話をした時があったからね。よくよく思い出してみれば、分かるよ」


「うーん。言われてみれば、そんな時もあったような」


 思い出してみれば、何か引っかかるようなものを感じる。

 しかし詳しくは思い出せないから、考えるのは放棄しておこう。


「えーっと、湖織は何で一緒に来たの?」


「ええ。仲間外れですかあ。私だってえ、この部屋にいる権利があるでしょお。訴えちゃいますよお」


「ごめんごめん。いちゃ駄目とは言っていないけど、どうしてなのか気になって」


 ここまでの間に、りんなお嬢様に関する衝撃の事実が判明しているから、あまり人が少ない方がいいと思ったのも確かだが。

 今湊さんなら大丈夫だろう、そんな根拠の無い自信もあった。

 だから、まだ退室を促していない。

 しかし今湊さん的には、今の話を聞いているのはどうなのかと、少し心配になっただけである。


「お兄ちゃんだけじゃ心配だったからですかねえ。ここは猛獣のいる場所ですよお。気を抜いていたらあ、頭から食べられちゃいますからあ」


 ガブガブとジェスチャーで食べられる仕草をし、彼女は胸をはった。


「それは、頼もしいですね。ぜひ、守ってください」


 確かにこの中で、一番立場が弱いのは僕だろう。

 油断をしていたら、頭から食べられて、骨も残らない。

 ここは遠慮なく守られておこう。


「サンタを守るのも目的だろうけど、本当にそれだけなの?」


 緋郷が何だか言ってくるが、今湊さんは完全に無視をした。

 あしらい方が上手くなっている。

 しかし、彼のしつこさを舐めてはいけない。


「ねえねえ、無視するの? なんかやましいことがあるの? 教えてよ、ねえねえ」


「ああ、もうしつこい人ですねえ。絶対性格が悪いでしょお」


「ははは。褒め言葉だね」


 無視ぐらいで諦めるような性格ではないので、今湊さんに詰め寄っている。

 さすがの彼女も、しつこさにため息を吐いた。


「もうう、言えばいいんですよねえ。分かりましたよお」


 完全なる敗北である。

 両手をあげて今湊さんは、降参した。


「そこら辺はあ、見逃してくれればよかったじゃないですかあ。私なんてえ、置物ぐらいに思ってくれればあ。それかモブとかあ」


 今湊さんは、置物には見えないし、モブでもない。

 さすがに存在感があるから、気にしないようには出来ない。

 心の中でツッコんでいると、緋郷が笑った。


「無視して欲しかったのなら、ここまでついてこなかったら良かったんだよ。わざわざ来たから、確信が持てた」


「ああ、少し迷ったんですけどねえ。でもお、あなたはまだ怪しかったのでえ。お兄ちゃんはあ、害がないのは分かっていたんですけどねえ」


「サンタは、どちらかというと普通だから。敵対視する方が、馬鹿ってものだよね。俺だって、ここで何か事件を起こすつもりは全く無いんだけどな」


「説得力がないんですよお。どうみたって、一番の危険人物ですう」


「俺の? どこが?」


 僕の方を見てくるが、絶対的に今湊さんの意見に賛成である。

 どう考えても、緋郷は怪しい。

 一般の人は外面の良さに騙されるけど、少しひねくれた人は、緋郷の方が僕よりもずっと危険だと分かるのだ。


 まあ、本人も分かっていて、あえて怪しい素振りをしているところもあるのだけど。

 愉快犯でもあるので、余計に悪い。


「それはいいや。それで、何でわざわざここまでついてきたのか、本当の理由を教えてよ」


 自身の分が悪いと悟ったのか、緋郷は話を変えた。

 それに対して追及せず、今湊さんは緩い笑みを浮かべながら答える。


「ついてくるに決まっているじゃないですかあ。私は専属の探偵ですからねえ」



 ……どういうことだ?






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