第40話




「専属の探偵? 湖織が?」


「はいい。そうですよお」


「誰の?」


「誰のというかあ、この島全体のですかねえ」


「え? 冗談ですよね?」


「この場でそんな冗談を言ったってえ、すぐにバレるに決まっていますよねえ。私は、嘘はつかないですよお」


 今湊さんが、この島専属の探偵。

 先ほどから、明らかになっていく事実に、理解が追い付いてくれない。


「え、ちょっと待ってください。いつからですか?」


「だいぶ混乱していますねえ。最初からに決めっているじゃないですかあ。私はあ、ずっとこの島のお、探偵ですよお」


「僕達を、騙していた……?」


「それは人聞き悪いですねえ。私は騙しているつもりはありませんでしたよお。迷い犬と猫を探すというのもお、嘘では無いですしい。だからあ、そんな怖い顔をしないでくださいい。怖い顔をされたらあ、私だって嫌な気持ちになりますよお」


「ご、ごめん」


 今湊さんは、最初は不思議で変な人だと思っていたけど、一緒に過ごすうちに良い人だと思っていたのだ。

 しかし、本人に悪気は無かったとしても、言わなかった時点で騙していたのと同罪では無いのか。

 少し信じられない気持ちになったけど、そんな僕の手を今湊さんが握った。


「お兄ちゃん。言わなかったのも悪かったですけどお、今まで一緒にいた時間はあ、嘘じゃないですからあ。私を信じてほしいんですう。私はあ、敵じゃないですからあ」


 僕の不信感を読み取り、今湊さんは悲しげな表情を浮かべていた。

 もしかしたら、この表情も嘘なのかもしれない。

 しかし、疑うのも疲れる。


「分かりました。湖織を信じる。だから、寂しそうな顔をするのは、もういいですよ」


「良かったですう。お兄ちゃんに嫌われるのはあ、凄く凄く嫌ですからあ」


 もう、騙されていても良いや。

 どうせこれから、何か事件が起こるわけではない。

 それなら信じていた方が、精神的にマシだ。

 天秤がそちらに傾いたので、僕は一応は信じることにした。


「それで、専属の探偵と言うのは、一体どういうことをしているんですか?」


「えーっとですねえ。先ほど依頼を受けたみたいにい、主に迷い犬と猫を探すんですう。情報を集めてえ、その情報をもとにですねえ。私はあ、元々家族がいませんでしたからあ、生活の保障を報酬としてえ、この島に置いてもらっているんですう。そうですよねえ?」


「今湊様は、とても優秀であられます。だからこそ、長らく専属で契約をさせてもらっているのです」


「えへへい。そこまで褒められるとお、調子に乗っちゃいますよお」


 信じて正解だったのかもしれない。

 褒められて嬉しがっている姿は、全く害を感じられなかった。


「この島で、今のところ猫しか見たことがないですけど。そんなにたくさんの動物がいるんですね」


「全員野生ですからねえ。警戒心も強いですしい、姿を現すことは無いんじゃないですかあ」


「そうですか。それは残念です」


 いつの間にかいなくなってしまった三毛猫も、もっと可愛がっておけば良かった。

 ああいう可愛い動物がいると、前もって分かっていれば、探しに出かけていたのに。


「えーっとお、運が良かったらあ、会えるかもしれませんよお」


 あまりに落ちこんだからか、今湊さんが慰めてくれた。

 たぶん、きっと会えなさそうな口ぶりだけど、諦めはつく。


「そればかりは、私が許可をしても無理なことですわね。相手がその気にならなければ、私にはどうしようも出来ないことですから」


 りんなお嬢様にまで言われたら、もうどうしようもない。


「それじゃあ、相手が僕に会う気になってくれるのを待ちます。まあ、明日までにですけど」


「一応う、私から伝えておきますよお」


 猫や犬に、話しかけている姿が、簡単に想像できて和んでしまう。


「それじゃあ、お願いしておきますね」


 期待はしないが、頼んでおいた。


「他に何か聞きたいことはあるのかしら?」


 衝撃な事実は、もうお腹いっぱいだ。

 もう話をするのも聞くのも嫌だけど、緋郷が止まるわけもなく。


「この島に呼んだメンバーって、どういうふうに決めているのか教えてよ」


 また波乱を巻き起こしそうな、そんな話題を提供した。


「どういうふうに決めている? それはあなた方の活躍を見て、この島に招くのにふさわしいのかどうか判断した結果だわ」


「誰が調べたの?」


「私ではないわね。それが何か? 働かせすぎだとでも言いたいのかしら?」


「いいや。どういう基準で選んだのか、ぜひその人に聞いてみたかったからさ」


「何か不都合でもありましたの?」


「不都合というかさ、どう考えてもできすぎているよね、っていう話」


 今日を命日にでも定めているのだろうか。

 この前以上に攻めすぎていて、勇敢というよりも考え無しの馬鹿にしか見えない。

 もしもこの部屋から帰ることができなかったとしても、存在なんて簡単に消されてしまう。

 僕達には、誰も探してくれる人なんていないから、簡単というよりもやらなくてもいいかもしれない。


「あの犯人の二人がさ、ちょうど同じ時期に招待される確率なんて、明らかに低いよね。探偵としての働きを見たっていうけど、本当にそれだけ?」


 きっと緋郷がりんなお嬢様の機嫌を損なった時、僕も絶対に巻き込まれる。

 彼女のおおらかな心を期待して、僕は祈り続けた。





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