第28話




「自殺を図ろうとしていたと言っていましたけど、幽霊じゃない限りは失敗したのかしら? それとも、直前になって怖気づいたの?」


「対侵入者用の装置が発動したのです」


「あら、そう」


 自身が作った物のおかげで人が助かったというのに、反応が薄い。

 本当に何とも思っていないのか、照れ隠しなのか。

 表情を取り繕うのが上手いから、判断が付かない。


「とにかく、これで全員が揃ったのだから、推理が始められるでしょう? 私、待ちくたびれていますの。くだらない話だったら、退屈で寝てしまいそうですわ。まさか、面白い話を聞かせてくれるのでしょうね」


「ああ、お望みには答えるよ」


 来栖さん達の衝撃があったとしても、りんなお嬢様の機嫌は完全には直らなかったみたいだ。

 ハードルを上げまくりプレッシャーをかけようとしたが、緋郷には全く効かない。

 緋郷の精神力が常人とは違うのを、そろそろ理解してもらいたい。

 困った姿を見られなかったりんなお嬢様は、鼻を鳴らした。


「それでは、あなたの推理をお聞かせくださいな。それとも、犯人だという二人に自白してもらった方が良いかしら」


「いいや。俺がするよ。そうやって、ここに集めたんだからね。最後には、探偵が推理するものだろう」


「まあ、本当に探偵ならね。お手並み拝見といたしましょうか」


 りんなお嬢様に促され、僕達はそれぞれの席に座る。

 あの来栖さんや賀喜さんまでもだ。

 しかし何かをしでかさないように、それぞれに千秋さん冬香さんがついたので、安心である。


 緋郷は推理は経って行うものだと思っているので、座ることはせずに、りんなお嬢様とは対極の位置に移動した。


「それじゃあ、期待に応えまして、今から推理を始めるよ」


 それでいいのかというぐらいに軽く、緋郷は推理を始める。

 緊張感のない始まり方だが、全員が自然と唾を飲み込んだ。

 もちろん、僕もそのうちの一人である。

 緋郷の推理なんて、随分と久しぶりだ。とても楽しみで仕方ない。





「さて、何から話をしようかな。まずは、姫華さんの事件からの方が良いよね。時系列から見て」


 人々の注目を集めながら、それでも堂々と緋郷は緊張した様子は無い。

 むしろのびのびとした様子で、話をするのを楽しんでいるように見える。

 緋郷からしても、久しぶりの推理に高揚しているようだ。

 そんな時の緋郷は、ものすごく調子が良いから、向かうところ敵なしという感じで無双してくれる。


 犯人がすでに出てきているから外れることは決してないけど、逆に言うと穴を本人に指摘される可能性が高いというわけだ。

 それはそれで、やりづらいだろう。


「事件の時のことを思い出してみようか。あの夜、俺達のほとんどは夕食後にサンタが持ってきていたトランプで遊んでいたね。えーっと、いたのは……」


「僕と緋郷と、鷹辻さんと槻木さん、今湊さんのメンバーだよ」


「あー、たぶんそうだった」


「途中でいなくなった鳳さんは、部屋に戻っていくのを来栖さんが送って言ったんだよね。遊馬さんは一人で部屋に戻っていて。飛知和さんと賀喜さんは、散歩していたんだって言っていた。合っていますよね?」


 誰も否定をしないから、大体の行動は合っているようだ。

 それにしても、一応これで六日間一緒にいるのに、名前を全然覚えていないままである。

 誰かが起こるかと思ったが、キャラとして定着して良かった。

 僕としても、心労が減って助かる。


「そんな感じで遊んでいた時にさ、一回この部屋の電話が鳴ったのは、皆覚えている?」


 その時に場にいたメンバーに対し、問いかけた。


「ああ! 確かに鳴った!」


 鷹辻さんが同意してくれて、話が早く進む。


「ちょうど、メイドの人の誰もいなかったんだよね。だから、来栖さんが一番近かったから、電話に出たんじゃなかった?」


「そうだったな!」


「その説は、私達の仕事が至らずに申し訳ございませんでした」


「いや、皆さんはきちんと仕事をしていましたよ。だから謝ることではありません」


 電話に出られなかったことを、冬香さんが本当に申し訳なさそうに謝罪をするから、僕がフォローをした。


「謝ることは無いと思うよ」


 珍しく緋郷もフォローをした。

 もしかして今までご飯を作ってくれたから、恩返しをしようとしているのか。

 冬香さんも、少し嬉しそうな瞳を向けた。


「だって、来栖さんにとっては、その方が都合が良かっただろうからね」


 フォローをしたわけではない。

 ただ単に、事実を言っただけみたいだ。

 冬香さんの瞳も、すぐに熱を失う。


「多分、メイドの誰かがいたとしても、何か理由をつけて次分が電話に出るようにしたと思うよ」


「そうでしたか。それなら確かに、気にするべきではないのでしょうね」


 自身が恥ずかしくなったのか、少し雑な感じで対応をしている。

 ツンデレ感があって、とても可愛い。


「その方が都合が良かったって言っていたよね? それって、何で?」


 槻木さんが手を挙げアピールをした。

 挙手してから発言をしなくてはならないというルールは無いので、おそらくだが可愛らしい仕草を狙ってしている。


 もう誰も騙されないのに、よく続けているものだ。

 槻木さんの無理なキャラ設定について、思いを馳せそうになったが、緋郷の声に引き戻された。


「そんなの簡単でしょ。アリバイ作りのためだよ」


 当然といった顔をしているが、全く当然ではないのだが、どういうことなのだろうか。





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