第11話




「私達は、りんなお嬢様のために生まれて存在しています」


「そ、存在から?」


 まさか、生まれた時から遡るとは。

 僕は驚きを隠せず、思わず二度見をしてしまった。


「ええ。私達は、りんなお嬢様のために生き、りんなお嬢様のために死んでいきます。そしてそれは、私達の本望なのです」


「本当に、それが本望なんですか?」


「はい。その通りです」


 自分の存在が他人のためだというのを、ここまではっきりと言い切るとは。


「それは、その人生は、いいものでしょうか?」


「はい。とてもいい人生です。りんなお嬢様と一緒にいられることを、許していただけているのですから」


「……そう、ですか」


 向こうはそう思っていないかもしれないが、僕と千秋さん達は似通っている部分がある。

 しかし僕と圧倒的に違うのは、彼女達には自信があるということだ。

 りんなお嬢様と一生一緒にいられるという、そんな自信が。

 どこからその根拠が来るのかは分からないが、とても羨ましい。


「生まれた時から決まっていたということは、もしかしてあなたは」


「はい。万里小路家専属でございます」


「そうだったんですね」


「私達は、この島でりんなお嬢様が何不自由なく過ごせるように、全てのことを叩き込まれてきました」


「確かに皆さん、とてもハイスペックですよね」


「いえ、まだまだ未熟ですので」


 この三人が未熟だったら、人間なんてみんな価値が無くなってしまう。


「そんなこと、ないでしょう。何でも出来るスーパーマンみたいです」


「スーパーマンは言いすぎですよ。空は飛べませんし、目からビームも出せません」


 逆に出せる人間が、この世に存在するのだろうか。

 それに三人であれば、そのうち出来そうな気がするけど。

 もしかしたら、実際は出来る可能性もありえる。


「りんなお嬢様には、不便を感じさせてしまうことが、非常に心苦しいです。私達では力不足かもしれません。それでも一緒にいたいのです」


「もしも、りんなお嬢様があなたたちを解放したとしたら?」


「そうですね。そんなことは一生起こり得ないと信じたいですが、もしもそうなった場合は、私達は迷わず死を選ぶでしょう」


 そこまでする魅力が、りんなお嬢様にはあるということだ。


「それでは、この島から出ると言った場合は?」


「その時は、一緒にいるまでです。りんなお嬢様のいない場所に、価値なんて見出せませんから」


「熱烈ですね」


「当たり前のことです。生きている意味でございますから」


 その表情は内から輝きを放っていて、とても綺麗だった。

 りんなお嬢様との関係性が少しは分かってきたので、あまり深くは突っ込まないことにしておく。

 ここの関係性も、色々なところに地雷が隠れていそうだ。


 四人を離してはいけないことは分かったので、良い収穫だったと言える。

 共依存の関係性の人達が多すぎて、いっそ笑えてくる。

 りんなお嬢様だって、彼女達がいなくなったら生きていけなくなるはずだから。何かしらの能力を隠していない限りは。


「お話をしていたら、そろそろ昼食の時間になってしまいましたね。少し早いと言えば早いですが、いかが致しましょうか?」


「ああ、確かに。いい時間かもしれないですね。軽くで良いですから、昼食を食べたい感じがします」


「私もです。賀喜さんも、そろそろ気分は良くなりましたか?」


「……はい。何とか。すみません、気を遣っていただいて」


 そう言われると、急にお腹が減ってきた。

 軽くサンドイッチでも食べたいのだが、千秋さんが作ってくれるのだろうか。

 今はそれぞれのグループに、メイドさん達がついているのだから当たり前か。


 あれ、今更だけど。


「りんなお嬢様に、誰かついていなくていいんですか?」


 本当に今更だけど、その事実をようやく思いだした。

 僕達を監視することが目的で、グループ分けをしていたが、りんなお嬢様のことを全く考えていなかった。

 一人で部屋にこもっているとしても、それこそ不便があるだろう。


「今からでも千秋さんが……」


「いえ、気にされなくても結構ですよ」


「でも……」


「私達がいなくても、りんなお嬢様は最低限自身のことが出来ますし、これはりんなお嬢様が許可を出されましたから」


 本当はいて欲しいが、りんなお嬢様のためにも千秋さんがついている方がいいと思い、泣く泣く提案をした。

 しかし本人が認めたのなら、遠慮をする必要が全くない。


「そうですか。それなら今日一日よろしくお願いします」


 彼女の言葉をそのまま鵜呑みにした僕は、雰囲気を察することなく、嬉しくなって頭を下げた。


「はい。よろしくお願いします。……りんなお嬢様には、私達がいなくても何とかなりますから……」


 明らかに元気が無くなったのを感じた時には、既に千秋さんの周りには負のオーラが漂ってしまっていた。

 僕はそこでようやく、自分がデリカシーにかけたことを言ってしまったのに気がつく。


「いや、そういうわけじゃ……」


 フォローしようとしても、回らない口と頭ではどうしようもない。

 焦っていれば、膝のところから呆れた声が聞こえてきた。


「あーあ。サンタは、人の心が読めないね」


 いつの間に起きていたのか、緋郷が目を開けて僕に視線を向けてきている。

 いや、緋郷に言われたくない。

 僕は心の中で突っ込みながらも、彼が空気を変えてくれることを期待した。




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