第42話
「私の報告はあ、終わりで良いですかねえ。たくさん話したから、口が疲れちゃいましたあ」
今湊さんの話は、そんな感じで緩く終わってしまった。
もう少し何かありそうだったが、そう言われてしまったら、誰も強制は出来なかった。
それに今までで一番、良い報告だったのだ。文句だって言えない。
「それでは、次はどなたが話をしてくれるのかしら?」
「それじゃあ、俺が!」
りんなお嬢様の言葉に、食い気味に手をあげたのは鷹辻さんだった。
きっとトリを飾りたくなかったのだろう。
その気持ちは、とてもよく分かる。
でも報告するのは、緋郷なので僕の気持ちは軽い。
「それでは、どうぞ」
「先ほどの話に似ているのだけど、俺達も最初は第三者の犯行の可能性を考えていました! も、もちろん、幽霊ではなくてです! でも、この島のセキュリティは素晴らしいものだと、彼女から聞ききました!」
鷹辻さんは話の中で、冬香さんを指した。
急に話題に出され驚いた彼女は、照れたようにはにかむ。
二人で照れている感じが、甘酸っぱい空気が漂っている。
舌打ちが出そうになるのを必死に抑えて、僕は机の下で拳を握り締めた。
ずるい。
僕だって、誰かとそんな空気を醸し出したい。
「そうねえ。冬香の言う通り、この島のセキュリティは万全をきしているわ。詳しいことは教えていないわよね?」
「はい」
「それならいいわ。この島に、外から人が勝手に入ってくることなんて不可能なのはお判りいただけたかしら?」
「凄さは分かりましたけど、絶対にありえないかどうかは言い切ることが出来ないと思うんです!」
「あら、そうなの?」
「そ、そうです!」
鷹辻さんのレベルで、りんなお嬢様と会話をするのは大変だろう。
きっと槻木さんの方が、緊張なく話せそうなものだが、弟を見守るという態勢に入っているのか、微笑んでいるだけで口を挟もうとしていない。
わたわたと体を動かしながら、話している姿は確かに応援したくなる。
「どういう風に侵入者が入るのかしら? これからの勉強のために、教えてくださる?」
「は、はい! ま、まずは、この島に前に来たことがある人です! この島で滞在している間に、セキュリティの穴を下調べしておいて、滞在が終わった後に侵入するんです! 一度来たことがあれば、どこに何があるかなんて分かっているでしょうから!」
「あら、そうね」
「そ、それか、この島には必要物資を運んでくる船が、定期的に来るそうですね! その船に乗っていて、物資を運んでいるどさくさに紛れて侵入をするとか! この場合は、船の人と共犯であるということになりますが!」
「あらあら」
きちんと聞いているように見えて、鷹辻さんの言葉を聞き流している。
それは馬鹿にしているからではない。
確信しているのだ。この島のセキュリティが鉄壁のものであると。
「あなたのお話は分かりましたわ。それでは、私からの反論をいたしましょう」
「は、はい!」
「それでは一つ目。この島に来たことがある方が、侵入するという可能性。滞在期間中に、セキュリティの穴を確認すると言っていましたわね。しかし、それは無理でしょう。この島のセキュリティに、穴なんてありませんもの」
「お、いや! でも!」
頑張れ頑張れ鷹辻さん。
二人が話している姿は、ハムスターとライオンが対峙しているように見える。
どちらがどっちなんて聞かないで欲しい。
体格の差なんて、ここでは瑣末な事だ。
むしろりんなお嬢様といると、鷹辻さんが随分と小さく見える。
それぐらい、りんなお嬢様の持つオーラがすごいという意味だ。
「納得しないというのなら、一部だけお話しますわ。この島のセキュリティに、体温を察知するものがあります。それは、どこかから入ろうとする者がいれば、大音量で警告音を鳴らします。もちろん、動物か人かの区別がついた上でですわ」
「そ、それでも!」
「先に言いましたが、ほんの一部ですわよ。この島には他にも、たくさんの仕掛けが施されておりますわ。数日の滞在期間だけで、全てを把握するなんて無理に決まっております」
「もしかしたら、複数犯の可能性は?」
「人数が増えたところで、同じことですわ。目に見えるものから、決して見えないものまで、この島を覆い尽くす網を張ってありますもの。分かったところで、侵入は不可能ですわ」
「そ、それじゃあ、船から……!」
鷹辻さんが、どんどん追い詰められている。
しかし助け舟を出せるわけでもなく、二人を見守るしかなかった。
「それも無理ですわね」
「どうしてそう言いきれるんですか? 共犯であれば、危険は伴いますが侵入出来ないわけでは無くなります!」
「船の操縦士は、ここにいる春海、千秋、冬香ですの」
「……へ?」
これは新事実。
というか、船の操縦まで出来るのか。
どれだけハイスペックなんだ。恐ろしすぎる。
「あなたは、この三人の誰かが私を裏切ったと、そうおっしゃっているのよ」
「い、いや、違……」
今まで良く頑張っていたが、もう無理だ。
トドメを刺された鷹辻さんは、ガックリと頭を下げた。
しかし僕は、彼の頑張りに拍手を送りたい気分だった。
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